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殿様の試写室

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北京の自転車 -2- 十七歳的単車

          北京の自転車 -2-
                 十七歳的単車
                 Beijing Bicycle

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「北京の自転車」。このタイトルと大まかなストーリーを聞いて、
連想したのはヴィットリオ・デ・シーカ監督の「自転車泥棒」(‘50:日本公開)でした。
幼いとき、この映画を観て号泣した覚えがあるのです。
「北京の自転車」というタイトルを見ただけで、
あのどうしようもない戦後の貧しさの中で生きるイタリアの親子の絶望感を思い出し、
再び、胸が痛くなりました。

ですが…
この映画に登場するのは、
中国の猛烈な経済発展の中で大きく変貌する都市(北京)の姿であり、
庶民の住居であった明の時代からの伝統的な建物・四合院が壊されている様子であり、
ニョキニョキと天を衝く近代的なビルが建築され、変化する街並みであり、
その建築労働者として、あるいは、農村で食い潰れて、都会に溢れる出稼ぎ者たち、
そして、都市生活者たちです。

イタリアのあのせつなく胸を締めつける絶望感とは質を異にしながら、
1台の自転車をはさんで展開する2人の少年の物語からは
中国が直面する問題とともに、少年のナイーブな心の軌跡が
鮮やかに浮かび上がってきます。
何かから逃げ、同時に、どこかへ向かう全力疾走…

そして、この男の子たちの演技がとても素晴らしいんです。
殿はジェン君が気に入ってます(最初の画像がジェンくんです)。
いえいえ、余計なことを言う前にざっとストーリーをご紹介しなければ。

ストーリー
四川省の村から経済発展著しい北京に出稼ぎにきた17歳のグイは
自転車宅配便の仕事を得ました。
最新式のMTB(マウンテンバイク)と制服に身を包み、都会風な髪に整えたグイを見て、
胡同の路地裏で小さな食品店を営む同郷の先輩も喜んでくれました。
その真新しい自転車は稼ぎが一定額を超えると自分のものになるのです。
自転車を自分のものにできる日を夢見て、グイは毎日必死に働きました。
そして、とうとうその日がやってきました。
ところが、配達を終えて、表へ出ると、厳重にチェーンをかけて駐輪したその場所から
大切な自転車が消えていたのです。

北京市内の四合院に、父とその再婚相手と彼女の連れ子である妹と4人で暮らす
17歳の高校生・ジェン。
友だちの間では自転車の曲乗りが大流行。
自転車を持っていないジェンは親の金を盗んで中古自転車を買い、
建設中のビルで友達と練習に明け暮れています。
憧れの同級生とも、彼女の自転車のチェーンを直してあげたのをきっかけに
交際が始まりました。
ジェンはその中古自転車のおかげで何やら運が向いてきたような気がしています。

宅配会社を解雇されたグイ。しかし、盗まれた自転車をみつければ、再び雇ってやる、
という言質を経営者からとることに成功。
必死に北京市内を探し回ります。
そして、とうとう四合院の中で、その自転車をみつけました。
それはジェンの中古自転車でした。
「店で金を出して買ったのだから、自分のものだ」と主張するジェン。
「もともとは自分のものだ」と言い張るグイ。
双方譲り合わず、激しく言い争います。ジェンの仲間も加わり、グイは打ちのめされます。
殴られても蹴られても諦めないグイ。
最終的に2人は折衷案を出します。
それは毎日交互に自転車を使うというものでした。

ある日、ジェンは不良少年とけんかになります。
自転車を受け取りにきたグイはそれにまきこまれてしまいます。
入り組んだ胡同を2人は必死に逃げるのですが…

この逃走シーンが圧巻です。
狭い路地を抜けて疾走するジェン。
回り角にさしかかると、全身をブレーキにして制動をかけ、
一瞬の躊躇の後、曲る方向を決めます。砂埃が上がります。
そこに自転車に乗ったグイも加わる。息詰まるシーンです。

胡同の袋小路、洗濯物の干し場に追い詰められたジェン。殴られるジェンとグイ。
血だらけになって白いシーツにすがりながら倒れ込むシーンは
アンジェイ・ワイダ監督の「灰とダイヤモンド」(‘59)のラストシーンを思い起こさせました。
少年の細い体が崩れおちる姿はいつの時代も鮮烈な物悲しさを誘います。

中国の経済発展にはすさまじい勢いがあります。
数カ月で街の風景が変わり、
老人たちがくつろぎ、幼児が遊んでいた路地がなくなります。
都会が変貌を続ける一方で、西域の農村部では100年前(いえ、それ以上でしょう)
の生活を続けています。

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そんな田舎からグイくんのような若者たちが都会にやってきます。
1台のMTBは「たかが自転車」ではないのです。
中国といえば自転車というイメージがありますが、
この映画の製作された2000年には既に都市生活者の大半にとって、自転車はただの足。
グイくんが会社から支給される自転車も、乗れればいいというチャリンコではなく、
最新式のMTBというところが新しい中国を象徴しています。
でも、グイくんにとって、自転車はただの足でも、新しい中国の象徴でもなく、
全存在なんですね(頑固で、無口で、不器用で、一生懸命な農村青年グイが自転車をどんなに大切に磨いているかを観てください)。

そして、ジェンくんにとっても「たかが自転車」ではありません。
都会の高校生であるジェンくんの家庭は豊かではないし、その構成も複雑です。
やっと手に入れたMTBはやはり命の次に大切な存在です。

これまで、第6世代の監督たちの映画には大躍進のさなかにある地方都市を描いたものや
農村出身者を描いたものが目につきました。
今回、初めて都会に暮らす普通の高校生を描いた映画が現れました。
ジェンくん、素晴らしいです。好(ハオ)です。

都会と田舎。富裕層と貧困層。
富める者はますます富み、貧しい人の暮らしは封建時代の頃と変わらない貧しさ。

この国には一体どんな将来が待ち受けているのでしょう。
                      
北京の自転車

監督・脚本/ワン・シャオシュアイ(王小帥)
出演
ツイ・リン(崔林)/グイ、リー・ピン(李濱)/ジェン、ジョウ・シュン(周迅)/チン、リー・シュアン(李爽)/ダー・ホアン、カオ・ユアンユアン(高圓圓)/シャオ
2000年、中国・台湾、113分、配給/ワコー、グアパ・グアポ
新宿K’s cinemaにて7月24日(土)~30日(金)13:20、18:40、8月27日(金)10:40
画像提供:ワコー/グアパ・グアポ
http://www.ks-cinema.com/movie/china_2010.html
http://www.ks-cinema.com/schedule.html

上演予定はこちらで。


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♪6月15日に更新しました。いつも応援していただき、ありがとうございます♪
by mtonosama | 2010-06-15 06:09 | Comments(6)
Commented by すっとこ at 2010-06-15 09:19 x
くぅぅぅぅうううううううううううううううううううう!

胸が締め付けられました。
ストーリーに?
いいえ、
殿様の名調子に!
   <何かから逃げ、同時に、どこかへ向かう全力疾走…
   <少年の細い体が崩れおちる姿はいつの時代も鮮烈な物悲しさを誘います。

殿様の心に いつも青春があるからこそ
紡ぎだされる珠玉の言葉の数々ですね。
酔わされました・・・・。

感謝のポチッ。

Commented by ひざ小僧 at 2010-06-15 09:28 x
やっぱり悲劇で終わらないと収拾がつかないんでしょうか、この映画。
なにも崩れ落ちなくたって・・・と胸が締め付けられます。
経済発展の光と影を映すためには「ノー・プロブレム」にはできないってことでしょうか。
Commented by mtonosama at 2010-06-15 09:53
♪すっとこさん

♪こどもだって、こう言っちゃうよ。くぅぅぅぅうううう♪
いつも過分なおほめのお言葉と間投詞(?)、
ありがとうございます。

マジで、この映画良かったです。
あ、もちろん、いつもマジですが。
Commented by mtonosama at 2010-06-15 10:01
♪ひざ小僧さん

”経済発展の光と影”というひざ小僧さんの言葉を聞いて
”青春の光と影”という曲を思い出しました。
プロコルハルム(古いなぁ)のあの曲です。

「無問題」は「没有(メイヨー)」ですかねぇ。
Commented by ライスケーキ at 2010-06-15 20:41 x
一台の自転車を巡って少年達の思いが痛いほど感じられます。
血だらけの少年達の見つめる将来は・・・悲劇ですか?

”青春の光と影”は ジュディ・コリンズ。
プロコルハルムは”青い影”だと思いましたが いかがでしょう。
両方とも私の好きな曲。  懐かしいな。 又聞きたいです。
Commented by mtonosama at 2010-06-16 06:34
♪ライスケーキさん

ご指摘ありがとうございます。

プロコルハルムは「青い影」"Whiter Shade of Pale"でした。
「青春の光と影」はジョニ・ミッチェルも歌ってますね。
なつかしいです…
今、ユーチューブで聴きました♪