菖蒲 -2- TATARAK
-2-
TATARAK
なぜ短編小説が1時間半の映画になりえたか?
アンジェイ・ワンダ監督はどんな魔法を使ったのでしょうか。
そこには1人の撮影監督の死が関わっています。
この撮影監督は本作の主演女優クリスティナ・ヤンダの夫であり、
ワイダ監督の友人でもあるエドヴァルト・クウォシンスキです。
「菖蒲」撮影の半ばに彼が病死したことによって、
この映画は3つの世界に分けられることになりました。
本来の小説世界
夫が亡くなる最期の日までをホテルの部屋で語るクリスティナ・ヤンダのモノローグの世界
映画「菖蒲」の撮影現場を映し出したドキュメントの世界
さ、この3つの世界が1本の映画になると、一体どんなことになるのか、
まずは、ちょっと覗いてみることにしましょう。
ストーリー
女優のクリスティナ・ヤンダはホテルの部屋でめざめたばかり。
「この映画は去年撮る予定だった。わたしはワイダに出演は無理だと伝えた」
彼女はカメラに向かって、この映画を撮影する予定だった撮影監督で夫のエドヴァルト・クウォシンスキの発病からその最期の日まで、
そして、ふたりの愛と苦悩の日々について、語り始める――
ポーランドの小さな町。1960年代。町には美しい大きな河が流れている。その町に住む医師とその妻マルタには深い心の傷があった。夫婦はワルシャワ蜂起で息子2人を亡くしていたのだ。最近、体調が悪いと訴えるようになったマルタを診察した夫は、彼女が余命いくばくもないことを知る。だが、そのことを本人に伝えられずにいた。マルタを心配して友人が訪ねてきた。
その時、訪れた船着き場のカフェでマルタはひとりの美青年を見かける。
その若さと美しさは彼女がとうの昔に失ってしまったもの。
彼はまた戦争中に死んだ息子たちと同じくらいの年頃でもあった。
翌日、マルタは河辺で偶然その青年ボグシに出会い、声をかける。若い彼が語る不満や悩みに耳を傾け、優しいまなざしを向けるマルタ。だが、彼は人生への野望もなく、この小さな町で一生生きていこうとしていた。
そんな彼にマルタは本を読み、教養を高めるように忠告。そして、次の日、一緒に河で泳ぐことを約束するのだった。
約束の河辺に昂揚した気持で向うマルタ。
その時、目に飛び込んできたのは楽しげに恋人と橋の上で語らうボグシの姿。
思わず踵を返すマルタだったが、気づいたボグシは彼女を追いかけてきた。
再び河辺に向ったマルタは河の中に生えている菖蒲を取ってきて、とボグシに頼む。
夏の到来を祝う聖霊降臨祭には菖蒲が欠かせないのだ。
生命の祝祭でもある聖霊降臨祭。
ボグシは軽々と向こう岸まで泳ぎ、菖蒲をひと束抱えて戻ってきた。
河辺で抱き合うふたり。
青年はほてった体を冷ますようにもう一度河に飛び込み、菖蒲を持ち帰ろうとする。
だが、その美しい肢体はもう浮かび上がることはなかった――
その河辺の撮影現場。
主演女優ヤンダはひどく動揺し、現場から走り去る。
雨の中、通りすがる車に同乗し、動揺を抑えきれないまま逃げていく女優――
ホテルの一室での女優のモノローグはまだ続いている……
しかし、老いつつある女性と輝きに満ちた若さに包まれた美青年との対比。
死とはもっとも遠い筈の青年の死。
河の流れと、その流れに揺れる菖蒲。
ことさらに説明的なシーンがあるわけではないのに、
生と死。青春と老い。愛と別れ。
人生の折々の局面が、心に、頭に、ひそやかに、そして、印象的に迫ってきます。
3つの世界が不協和音もなくひとつになっていました。
エドワード・ホッパー「朝の日ざし」(‘52)
すいません。終りに近くなって、またまた最初の話題に戻るのですが、
映画と絵画のことでもう一言。
監督がこの作品で意識した絵画はエドワード・ホッパー。
女優クリスティナ・ヤンダがホテルの一室で独白するシーンの客室は
美術のマグダ・デュポンに頼んでホッパーの絵を基に建ててもらったものだそうです。
とのの中では、アンジェイ・ワイダのイメージと、
都会の孤独と寂寥感を描きだしたホッパーの作品は結びつきません。
いずれにせよ、「菖蒲」はアンジェイ・ワイダの意外な横顔を覗かせてもらった作品でした。
終
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☆10月22日に更新しました。いつも応援して下さって本当にありがとうございます☆
菖蒲
監督/アンジェイ・ワイダ、撮影監督/パヴェウ・エデルマン、作曲/パヴェウ・ミキェティン、美術/マグダレナ・デュポン、プロデューサー/ミハウ・クフィェチンスキ
出演
クリスティナ・ヤンダ/マルタ、クリスティナ・ヤンダ/女優、パヴェフ・シャイダ/ボグシ、ヤドヴィガ・ヤンコフスカ=チェシラク/マルタの友達、ユリア・ピェトルハ/ハリンカ、ヤン・エングレルト/医師
10月20日(土)より岩波ホールにてロードショー(全国順次公開)
2009年、ポーランド、87分、ポーランド語、配給/紀伊國屋書店、メダリオンメディア、配給協力/アークフィルムズ、後援/ポーランド広報文化センター
www.shoubu-movie.com
私の場合はスクリーンの中でくらいしか
そんな青年にはお目にかかりませんが。
TATARAKってポーランド語で?「菖蒲」のことでしょうかね?
本格的な秋を迎え、心ときめきたい今日この頃でございますね。
Tatarak・・・・・
菖蒲のことでしょうかねぇ。
今、少し検索してみて出会ったのは、
チェコ語ではタルタルステーキのこと、なんてありました^_^;
ご存知、生肉&生卵。ユッケみたいな料理ですよね。
でも、これを紹介していらしたあちらに住んでいる日本の方
はねぎとろを想い出しながら召しあがるのだそうです。
菖蒲とねぎとろ、ねぇ(笑)
NY郊外のナヤックという小さな街に
エドワード・ホッパー・ミュージアムが
あるのです。彼が暮らした家です。
そこへ、この夏行ってきたものだから
「なんとーーーーーーー!!」となって
しまいました。
若い美しい男・・・・
とんとご縁がなく。
老いぼれた男の方を
美しい、と思う自分です。
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そうでした。
すっとこさんのブログでエドワード・ホッパーを見て、
その後、「美の巨匠たち」という番組でも彼の作品を観る機会があり、そして、今回のこの「菖蒲」です。
彼の美術館へ行ったなんて、羨ましい。
静かな美術館でじっくりホッパーの絵を見てみたいです。
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