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殿様の試写室

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マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman


マダム・ベー 

ある脱北ブローカーの告白

-2-

Mrs.B. A North Korean Woman

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman_f0165567_519401.jpg

(C)Zorba Production, Su:m

脱北を映像で知ったのは
2002年、中国・瀋陽にある日本総領事館へ
当時2歳の女の子を含む北朝鮮難民5人が
逃げ込もうとした事件でした。
あれからもう15年も経つんですね。

あの映像が目に焼き付いているので
脱北には常に「必死」というニュアンスがついてまわります。

それなのに、脱北ブローカーですって。
そういう商売が成り立つほど
脱北者は増えているということなんですね。

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman_f0165567_529323.jpg

ユン・ジェホ監督がBのドキュメントを撮るに至ったのは
偶然と言っていいかもしれません。
もともと劇映画のシナリオをつくるため、
脱北者に会って取材しようと中国へ入った監督。

脱北ブローカーを介して何度目かの紹介で辿り着いたのが、
自身も北朝鮮から中国へと渡り、
脱北ブローカーをしている主人公Bでした。

Bから取材可能な脱北者を
紹介してもらうことになっていた監督は
ある日、
Bが中国で一緒に暮らす〈家族〉の許へ招かれ、
そこで暫く生活させてもらいました。
その間に、
なぜ北朝鮮人のBに中国人の夫と家族がいるのか、
そして、なぜ危険な脱北ブローカーをやっているのか、
次々に疑問が湧いてきました。

その疑問に答えてBは言いました。
「私を記録したら?」

それが本作の生まれた理由です。

そもそもBは中国で外貨を稼ぎ、
1年経ったら北朝鮮へ戻るつもりでいました。
ところが、騙されて中国の貧しい男に売られてしまい、
そのまま、脱北ブローカーとして働いているのです。
中国に夫とその両親という家族ができて、
北朝鮮にも夫と息子たちがいるという
二つの家族を持つことになりました。

こんなことは若い韓国人監督にとっても
私たち日本人にとっても尋常のことではありません。

映画はBが脱北者を逃がすシーンから始まります。
仕事を終え、バイクに乗って辿り着いた中国の家。
中国人の夫も献身的で
舅姑も優しい老人です。
買われてきたとはいえ、
この家にとってBは大切な存在のように見えます。

でも、彼女には北朝鮮人の夫との間にできた二人の息子がいます。
彼女は彼らの将来を案じて息子たちを一足先に韓国へ脱北させていました。

そして、
Bは息子たちの生活を安定させるため、
自らも中国の家族と別れ、脱北することを決心するのです。

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman_f0165567_5332271.jpg

慣れた手つきで旅支度をするB
彼女を見守る中国人の夫や義父母。
バスに乗った妻をいつまでも見送る夫。
そっと涙を拭うB。
買われた女であっても
中国の家族の間に絆が、愛情が
生まれていることがわかります。
切ないシーンです。

Bの辿った脱北ルートは苛酷なものでした。
カメラは北朝鮮・会寧市からBと共にバスに乗り込みます。
鴨緑江を渡り、再び中国に入り、
天津、済南、昆明を経て、
タイに入国。
山中をシーサンパンナ・タイ族自治州、
ラオスのムアン・シング、
そしてタイのタンボンウィアン、
チェンライ、バンコクに入り、
ようやく空路ソウルへ。

総計何Kmになるのでしょう。
巨大な大陸の片隅を蟻が這うように進む恐るべき脱北ツアーです。
乳飲み子だっています。

しかし、なぜ、このシーンが撮れたか。

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman_f0165567_543375.jpg

2013年5月頃、
Bから韓国へ向かうという連絡を受けた監督。
彼女が出発するシーンを撮影しようとしていたら、
どさくさに紛れてBの乗った車に乗せられてしまいました。
そして、そのままバンコクへ行ってしまうことになってしまったのです。

そりゃ、リアルな筈です。

十分な水も食べ物もなく、体も洗えず、
その上、カメラや資材を持っての移動。
タイ、ラオス、ミャンマーの国境が交わる
ゴールデン・トライアングル地帯を超えるときは
1日18時間くたくたの身体と重い資材をひきずって
山を登りました。
撮影というより決死行です。

揺れる画像がリアル脱北を語っていました。

その挙句
監督はタイで密入国者として逮捕されてしまったのですから、
踏んだり蹴ったりです。

ですが、脱北者たちはタイに到着した時点で
タイ警察の保護下に置かれました。
まずはやれやれ。

しかし、韓国人の監督は
不法入国で処罰され、追放されてしまいました。
まさに体当たり取材、“電波少年”ではありませんか。

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白 -2- Mrs.B. A North Korean Woman_f0165567_5373379.jpg

脱北道中の緊張感もさることながら、
胸を打つのは
今、自分たちが生きる日本の隣で
望まない二重結婚をし、
家族を持ち、
家族を持てば情や絆が生まれ、
情や絆につながれば、
やむを得ぬ別れであっても
そこには言葉につくせない痛みが生じていること。

あの国が今の状態のままでは
今後もまた引き裂かれるような別離が起こり続けます。

すごいドキュメンタリーです。





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マダム・ベー
監督/ユン・ジェホ、撮影/ユン・ジェホ、タワン・アルン、プロデューサー/ギョーム・デ・ラ・ブライユ、チャ・ジェクン、音楽/マシュー・レグノー、編集/ナディア・ベン・ラキド、ポーリーン・カサリス、ソフィー・ブロー、ジャン=マリー・ランジェル
2016年、韓国・フランス、72分、ドキュメンタリー
6月10日(土)よりシアター・イメージ・フォーラムにて上映
配給/33 BLOCKS(サンサンブロックス)、http://www.mrsb-movie.com/



by Mtonosama | 2017-06-09 05:51 | 映画 | Comments(7)
Commented by ライスケーキ at 2017-06-09 20:57 x
これ、ドキュメンタリーなんすか。
信じられない。
脱北ブローカーなんて
顔出して良いんでしょうか。

スパイ容疑で空港で
殺されちゃった方がいましたが、
そんな目に合わないように
祈るばかりです。
Commented by ライスケーキ at 2017-06-09 21:01 x
「で」がぬけてしまいました。
Commented by Mtonosama at 2017-06-10 05:55
♪ライスケーキさん

本当にびっくりしました。脱北ブローカーなど最も危険な仕事だと思いますけれど・・・
彼女が監督に「私を記録したら?」と言ったそうです。脱北ルートも向こうにわかってしまったら、危ないでしょうに。実際そのルートで捕まっているとも言ってましたしね。
こうやって公になっていくことがもしかしたらあの国を追い詰めていくことになるのかもしれませんね。追い詰められた結果、良い方向にいくことを望みます。
Commented by なえ at 2017-06-10 14:57 x
ちょっとようわかりませんが、「1年間だけ出稼ぎの筈が騙されて売り飛ばされ、脱北ブローカーとなった」ということですが、その間の彼女の身分はどういうものだったんでしょう?
北朝鮮国籍だけれど、売り飛ばされたので行方不明の扱い?
でも息子たちは脱北させる手はずはとれたんですね(?o?)彼女が脱北するということは、脱北ブローカーを辞めるということ?苛酷な脱北ルートはでも同業者は知ってるけど、追われなかったのでせうか?
あ、答えは「映画を見て下さい」てことでっか?
Commented by Mtonosama at 2017-06-10 17:43
♪なえさん

売り飛ばされたということ自体、「そんなことが本当にあるのか!?」とびっくりですよね。
北朝鮮から中国への出稼ぎは自由なのか、ということは映画を観てもよくわかりませんが、脱北ブローカーになるまでも、なってからも、彼女は中国人の妻だったようです。かの国のことはいろいろわからないことが多いのですが、韓国に行ってからの彼女はまったく違う職についています。
ライスケーキさんも言っているように映画で面が割れちゃって大丈夫なのかな、という心配もあります。あの国も早くまともな状態になるといいな。是非、映画を観てください。
Commented by ヨモギ at 2017-06-11 20:54 x
日本のすぐ隣で こんな人生を送る人々が
おられるのですね。
素顔のままで出ているからこそ、真実を語りたいという
彼女の覚悟をかんじますネ。
落ち着いた生活のなかで、お化粧や髪形できれいになって
社会の中に溶け込んで元気に生きておられるといいなと思います。
Commented by Mtonosama at 2017-06-12 06:01
♪ヨモギさん

逞しい女性だと思います。でも、だからといって「苦しみや悲しみなんて平気だよ」ということでは絶対にないと思うのです。
ヨモギさんのおっしゃるように社会の中に溶け込んで生きていければいいですね。どんな状況であれ、別れはつらいものです・・・

by Mtonosama