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殿様の試写室

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わが教え子、ヒトラー Mein Fuehrer

わが教え子、ヒトラー
Mein Fuerer
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  最近のドイツ映画にはナチをテーマにしたものが多い気がします。
     「ヒトラー、最期の12日間」(‘04)
     「ヒトラーの贋札」(’07)
     「白バラの祈り ゾフィー・ショル最期の日々」(‘05)。
そうそうi以前ご紹介した「敵こそ、わが友」もドイツ映画ではありませんが、同じ。
皆ここ数年の作品です。

           ヒトラーが死んで63年。
           60年も経てば、そろそろ禁忌のカーテンを開けて
           稀代の独裁者の素顔に迫ってみようかという
           勇気あるドイツ人あるいはユダヤ人の映画制作者が出てくるからでしょうか。
           加害者側も被害者側も客観的に語るには、
           ともに60年を超える歳月が必要だったのでしょう。

           とはいえ、安直なピカレスク小説ではないのですから、
           悪人としてのヒトラーは当たり前過ぎるし、
           だからといって人間としてのヒトラーを描くのも問題があるでしょう。
           ドイツ国内にはネオナチだっていますから。

           それを思うと、
           死を目前にした人間味あふれるヒトラー(「ヒトラー、最期の12日間」)を
           描いた1957年生まれのオリバー・ヒルシュビーゲル監督は、
           かなり思い切りのいいドイツ人でした。

      本作「わが教え子、ヒトラー」も思いがけない切り口からヒトラーに迫った映画です。
      私たちがヒトラーと聞いて思い浮かべるのは
      大観衆の前で唾を飛ばし、手を振り回し、足を床にうちつけ演説する姿。

      ところが、ところがです。
      ヒトラーの演説には重大な欠陥があったというのです。

           長時間演説すると声が出なくなってしまうヒトラー
           その発声上の問題を矯正し、演説を指導する教師がいた……

      それがこの作品の出発点です。
      ‘03にポール・デヴリエンという人物の著書「わが教え子(マイン・シューラー)
      アドルフ・ヒトラー」が出版されました。
      それに触発され、「わが教え子、ヒトラー」(マイン・フューラー)の脚本を書き、
      監督をしたユダヤ人がいます。
      ダニー・レヴィです。

           ポール・デヴリエンはオペラ歌手兼ボイストレーナーという
           政治とは無縁の人物ですが、
           この映画で、敗北も秒読み段階に入り、
           鬱状態にあるヒトラーに自信を回復させ、
           力強い演説を行うためのノーハウを教える教師として
           設定されたのは強制収容所のユダヤ人でした。

           戦前は世界的な名優として名を馳せ、総統になる前のヒトラーに
           発声法を教えたこともあるというグリュンバウムがその主人公。
           収容所から総統官邸へいきなり連れてこられ、
           その理由を明かされた彼は自分のおかれた立場に当惑するものの、
           収容所に残る家族を呼び寄せることを条件にヒトラーを教え始めます。

      ポール・デヴリエンがヒトラーを教えたのは1932年
      映画の中でグリュンバウムが教えるのは敗北直前の44年。
      映画は史実に基づいているとはいえ、
      わずか12年という時間設定の違いが荒唐無稽感を増幅します。
      そして、ヒトラーが妙に愛らしく人間臭く描かれます。
      グリュンバウム夫妻のベッドの真ん中にパジャマ姿のヒトラーが
      甘えて入ってきたり…

           笑いたいのに笑えない。
           私たちにとってヒトラーは悪のオーラをいまだに出しまくっていて
           「可愛い!」などと笑っちゃいられません。

           自己規制の網の目にがんじがらめにされ、
           いままでのヒトラー像が刷り込まれている人間にとっては
           立ち位置を決めるのが難しい映画。
           笑ったりすると背後から「おまえ、なに笑ってんだよ」
           とこづかれそうな気がします。

      被害者側にあるユダヤ人監督だからこそ
      撮ることのできた作品。
      時を経て笑うことができるのは被害者の側の人間だけかもしれません。

      悩めるユダヤ人グリュンバウムを演じるのはウルリッヒ・ミューエ。
      「善き人のためのソナタ」でシュタージ(旧東独国家公安局)の大尉を
      演じた俳優ですが、惜しくも昨年胃がんのため、54歳で亡くなりました。

      総統官邸に連行された時の当惑した顔
      鮮烈なラストで見せた静かな笑い
      沁みてきます。

      合掌

監督/ダニー・レヴィ
キャスト
グリュンバウム/ウルリッヒ・ミューエ、ヒトラー/ヘルゲ・シュナイダー
9月初旬 Bunkamuraル・シネマにてロードショー他全国順次公開
www.waga-oshiego.com

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by Mtonosama | 2008-08-18 07:14 | 映画 | Comments(6)
Commented by ライスケーキ at 2008-08-18 21:58 x
どう考えてもヒトラーは「悪人」。  でも彼の演説を聴いて「ハイル・ヒトラー!」と叫んで彼に追随して戦争に突き進んでいったのは「普通のドイツ人」。  「お国のため、天皇のため」と言って戦争に突き進んでいったのは「普通の日本人」。  プロパガンダによって人々が道を誤ってしまうのが 怖い。 
Commented by との at 2008-08-19 06:47 x
本当にそうですね。
この映画は喜劇だっていうけど、
なかなかそういう見方はできません。

しかし、ヒトラーっていろんな料理法ができる人物ですね。
戦後63年もたってるのに。
Commented by すっとこ猫 at 2008-08-19 21:23 x
ヒトラーって
高校生の時めちゃくちゃ憧れた現国の先生に
とってもとっても横顔が似てるの。
ふたりともタイプなんです。
困ったな。なんとなく困っちゃってます。
Commented by との at 2008-08-20 06:26 x
すっとこ猫さんの困った気持ち、わかるような、わからないような。

むかしの学生さんのように”ナンセンス!”って切り捨てられたら
楽ちんなんだけど。
こちらも面妖にに大人になってしまいましたから。

とのは現国の先生もヒトラーも嫌いだから、
すっとこさんのように困ることはありません。
その分浅薄な人間かもしれません。

Commented by ひざ小僧 at 2008-08-20 10:36 x
原作者の心中を思ってしまった。この人の出自と映画上の設定はどのくらい違えてあるのだろう。年代設定を変えフィクションとして描いているのか。恐らくそうなのだろう。原作者の感想を聞いてみたいと思う。
Commented by との at 2008-08-21 06:35 x
ひざ小僧さん、ありがとうございます。

ドイツ人が「だってあれは喜劇でしょ?」と言ってました。
ユダヤ人の監督も喜劇として描いた、と語っているけれど、
受け取る側はなかなか…

ユダヤ人である監督としては喜劇としてのひねりを加えないと
ヒトラーと向かい合うのはきついのでしょうか。
喜劇だとしても素直に笑えない喜劇です。

今後ともよろしくお願い申し上げます。