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殿様の試写室

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殿が観た最新映画をいち早くお知らせ!

カテゴリ:映画( 988 )

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         (c)2008 Jean-Louis Blondeau / Polaris Images
マン・オン・ワイヤー
MAN ON WIRE

日経新聞(平成21年5月19日)文化面にアートディレクターの佐藤可士和氏が
「人間の目指す究極の造形は(…)直線だと思う」
と書いていました。
それで、はたと
「マン・オン・ワイヤー」が映画になった理由はこれだったのか、と気付いた殿です。

今から35年前
当時世界で一番高いビルNYワールドトレードセンター(ツインタワービル)の間
411メートルの高さにワイヤーが張られました。

   それはツインタワービルという2本の垂線。
   はるか下方の地面と平行をなす1本のワイヤー。
   すべて線です。
   周囲には空気だけ。
   これぞ究極の空中アート、直線によって切り抜かれた造形であります。
   その411メートルの高さの線上を軽やかに移動する黒いしみ。

       あれを見ろ!
       カラスか?
       リスか?
       いや、人間だ!!
   (その昔、「スーパーマン」テレビ版冒頭でいつも出てきたせりふをパクリました。
    ごめんなさい)

   そう、人間でした。
   それは、完璧な造形に動きとリズムを与え、見上げる人々の視線をとらえました。

20世紀の芸術犯罪と言わしめた画期的な事件。
「マン・オン・ワイヤー」は23歳のフランス青年フィリップ・プティが行った
地上411メートルでの綱渡りを描いたドキュメンタリー映画です。
無届で(もちろん届けなど出したら、その場で逮捕でしょうが)
建築中のワールドトレードセンタービルへ不法侵入
さらに、ビルの最上階にワイヤーを張るなどという誰も考え付かないその行動は
とてつもない危険行為でありました。
ですから、411メートルの綱の上で1時間近くにわたって命綱もつけず
綱渡りを披露したプティは即座に逮捕され、精神鑑定を受けることになりました。
もちろん、なんの異常も発見されませんでしたが。

        1974年8月7日
        フィリップ・プティはワールドトレードセンタービルの最上階と最上階をつないで
        張られた綱の上を45分間にわたって8往復しました。
        それはとても楽しそうで、細い綱の上を軽やかに踊るように往復する姿が
        翌日の新聞の1面を飾ったものです。

        とき、あたかもウォーターゲート事件で明らかになった政治スキャンダルによって
        合衆国史上初めて、現役の大統領が任期中に辞任に追い込まれるという
        大きな事件の真っただ中。
        プティが綱を渡ったその翌日
        ニクソン大統領は全米国民に向けてのテレビ演説で辞職を発表したのでありました。

        それをさかのぼること6年
        17歳のプティはパリの歯科医院の待合室で1冊の雑誌を手にとりました。
        そこに掲載されていたのがNYワールドトレードセンタービルの建築計画。
        彼はそのページをむしりとり、治療もしないで外へ飛び出しました。
        出会いとは痛みを伴うものです。
        プティは大きな夢に出会えた代償として歯痛を抱え込んだのであります。

        1971年
        20歳のプティは手始めにノートルダム寺院の尖塔と尖塔の間に綱を張り
        渡り始めました…

あのワールドトレードセンタービルが舞台となっていますが
それが政治的な暗喩であるなどということは一切なく
ニクソン大統領の辞職もプティの行動にはまったく関係ありません。
ただ、あの9.11の映像があまりに衝撃的だったため
その同じビルの完成前の姿を見るとき
亡くなった親の子供時代の写真を見るような切なさを感じてしまいますが
それは観る側の思い込みにすぎません。

     決行の8か月前にNYに到着したプティはマンハッタンで大道芸をし
     資金を稼ぎながら、友人や協力者とトレーニングや計画を重ねました。
     童顔のプティが彼らとこの世紀の“芸術犯罪”の計画を練っている様子は
     いかにも楽しげです。

でも、約200kgもあるワイヤーを厳しい警備の中、ワールドトレードセンターに
運び込むだけでも大変ですし
ワイヤーの設置方法や風やビルの揺れを相殺するためのワイヤーの固定方法など
友人や協力者の仕事は胸が痛くなるほど、神経を使うものでした。
だって、サーカスと違ってネットもないし、命綱すらないのです。
綱渡りの成功はプティのテクニックと度胸
そして、友人たちの努力にかかっていました。

政治と戦争の日々であった70年代
こういう冒険に夢中になれたプティとその友人たちって、かなり良い人生を過ごしています。
プティは1974年8月7日以来ずっとNYに住み
「僕はニューヨーカーさ」
とフランス語訛りの英語で話しています。
そうそう、プティにはワールドトレードセンターの展望デッキのVIP許可証も贈られたそうですよ。
「永遠に有効」と書かれた許可証が。

マン・オン・ワイヤー
監督/ジェームズ・マーシュ、製作/サイモン・チン、撮影/イゴール・マルティノビッチ、音楽/マイケル・ナイマン、ジョシュァ・ラルフ
出演/フィリップ・プティ
6月13日(土)、新宿テアトルタイムズスクエア他、全国順次ロードショー
http://www.espace-sarou.co.jp/manonwire/

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by mtonosama | 2009-05-27 05:59 | 映画 | Comments(10)
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        © 2008 Laboratory X, Inc.

精神
Mental

以前、この映画の監督である想田和弘さんの「選挙」というドキュメンタリー映画を観ました。
監督の呼び方によれば、観察映画というそうですが。
小泉自民党のもと、川崎市々議会議員補欠選挙に出馬した監督の友人が
選挙を戦う一部始終を撮った作品です。
選挙の裏側を野次馬気分で観られてなかなか興味深いものでした。
(7月4日からライズXにて復活ロードショー)
選挙というものを、知ってるつもりではいたものの、映画で観るとびっくり!の連続。
選挙の裏側ってこうなってるのか、と目の中のうろこがはらりと落ちました。

しかし、二作目は「精神」。これはまたいったい…
「精神」は〈精神現象学〉とか、〈絶対精神〉の精神ではなく、〈精神病院〉の精神です。
この精神病院という言葉すら禁忌の領域に属するのではないでしょうか?
「選挙」の手法から推測すると本作「精神」もまた病院に潜入してカメラを回した?
まさか…

観る前に何度もそんな問いを繰り返しました。
観た後ですか?

はい、驚きました。
カメラの前の患者たちがきわめて冷静に自己分析しつつ
論理的に語っていることに、です。
さらにモザイクもなしに、です。
そういうことに驚くこと自体、既に、精神科の病を患う人への偏見なのでしょう。

        世間では、健常者と患者との間に、透き通ったカーテンが引かれていて
        健常者と言われる私たちは患者のことを見ないふりをして過ごしてきたようです。
        なのに、この映画を観たら
        見ないふりをしてきた彼らのことを
        正面から見ることになってしまいました。

外来精神科〈こらーる岡山〉に通院する
統合失調症、躁うつ病、パニック障害などの神経症を抱えた患者たちは
カメラの前で語ります。
モザイクも、黒い眼隠しもない、ありのままの顔です。

        もちろん、患者たちは素顔で出演することに快く賛同してくれるわけではなく
        ひとりひとりから撮影許可を得ることはとても大変だったでしょう。

監督はいいます。
「被写体の顔にモザイクをかける手法は、患者に対する偏見やタブー視をかえって助長する」
う~ん、そうかもしれませんが…

                        (thinking time)

確かに、モザイクは、保護されるべきもの、人目に触れさせたくない対象に付けるもの。
でも、〈こらーる岡山〉に通院する患者は、児童でもなければ、ワイセツでもありません。
本人が納得したなら素顔で出演することになんの問題もないのでしょう…

        〈こらーる岡山〉は、代表を務める山本昌知医師が開設した外来精神科診療所です。
        山本医師は以前、精神科病院に勤務していたとき
        病室のドアに外からかけられた鍵に疑問を抱き
        〈鍵のない精神科病棟〉をめざした人物。
        「病気ではなく、人間を診る」 「本人の話に耳を傾ける」 「人薬(ひとぐすり)」
        をモットーとし
        患者が病院ではなく、地域で暮らしていくための方法を模索し続けています。
        ですから、〈こらーる岡山〉には
        牛乳配達を行う作業所と食事サービスを行う作業所が付属し
        通院者たちの働く場所にもなっています。

〈こらーる岡山〉に通院する患者の顔ぶれは老若男女とりどりですし
発病の理由もいろいろです。 
 
  精神的に追い詰められ、生まれたばかりの赤ちゃんの口を塞いで死なせてしまった母親。
  少年時代から神経症とつきあいながら、哲学や芸術を深めてきた男性。
  自殺未遂を繰り返す人。

さまざまな患者がいますが、モザイクを取り外したことによって見えてくるのは
「いったい私たち健常者とどこが違うの?」ということです。
環境が少し変わっていれば
私たちだって透き通ったカーテンの向こう側にいたかもしれません。

監督は、この映画で
「患者や障害者を『弱者』とも『危険な存在』とも決めつけず、かといって讃美もせず、
虚心坦懐に彼らの世界を見つめることを第一義とした」

といいます。
う~ん。そのためのモザイク取り外しだったんですか。

いろいろな感じ方で観ることのできる映画だと思います。
笑って楽しめる映画でもありませんしね。
実際、いろいろ語っていた出演者が自殺したと、映画の最後で知らされるのはつらいものです。
でも、いつまでもカーテンをひいて見ないふりをするわけにはいきません。

いつも思いもよらない世界を見せてくれる想田監督はすごい!

精神
監督・撮影・録音・編集・製作/想田和弘、製作補佐/柏木規与子
出演/「こらーる岡山」のみなさん、他
6月13日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給・宣伝:アステア
www.laboratoryx.us/mentaljp

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by mtonosama | 2009-05-22 05:34 | 映画 | Comments(8)
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          © 2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

愛を読む人
The Reader

「愛を読む人」とはまた気恥かしい邦題です。
原題は”The Reader”。ドイツ語タイトルは”Der Vorleser”。
ベルンハルト・シュリンクのあの小説「朗読者」を映画化した作品です。

        ベルンハルト・シュリンクは1944年ドイツ生まれ。
        1995年出版の「朗読者」は40ヶ国語に翻訳され
        世界的なベストセラー小説となりました。
        1982年以降、ボン大学で教え、現在はフンボルト大学法学部教授。
        短編集「逃げてゆく愛」(‘00)、長編小説「帰郷者」(’08)、
        推理小説シリーズなどもあります。

ドイツ好きの殿はこの小説を読みました。
ハナとミヒャエルのそのいけない関係も含めて
高熱にあえぎながら壁紙の模様を凝視するミヒャエルの内面世界とか
幼い思慕が深く悲しい愛に変わっていく「朗読者」の世界に
すっぽりはまりました。
この小説の持つある種の静けさがどのように映画に反映されるのでしょうか?
なんかちょっとこわい気がしたのですが。

        「朗読者」の映画化権を得たのは
        辣腕プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインとミラマックス映画でした。
        1996年のことです。
        ワインスタインの希望でアンソニー・ミンゲラが監督と脚本を担当。
        シドニー・ポラックが製作に加わることに。
        ところが、映画化が進まないまま、10年が経過。
        そうこうする内、スティーヴン・ダルドリーから
        「自分が監督をしたいのだが」という申し出がなされました。
        ミンゲラは自分とポラックがプロデューサーとして残ることを条件に
        ダルドリーが監督することに同意したのだそうです。
        《ミンゲラは昨年3月に54歳の若さで、その2ヶ月後にはポラックも74歳で
         映画の完成を見ることなく亡くなってしまいました》

ま、そんな経緯はさておき、ダルドリーといえばあの「リトル・ダンサー」(’00)で
幸運な監督デビューを果たした人物。「めぐりあう時間たち」(’02)も彼の監督作です。
「『朗読者』は、ずっと心に残る小説だ」と語っているのですから、期待してみましょう。

        あ、ちなみにこの映画は英語です。
        ハナはハンナ、ミヒャエルはマイケルとなっていますので、ご承知おきください。

    《ストーリー》
   1958年ドイツ。15歳のマイケルは学校の帰り道、具合が悪くなってしまいます。
   座り込む彼を一人の女性がてきぱきと世話をして、家の近くまで送り届けてくれました。
   3ヶ月後、ようやく回復したマイケルはお礼を言おうと
   一人暮らしのその女性の部屋を訪ねます。
   彼より21歳年長のハンナという名の彼女はそっけなくマイケルを迎えます。
   しかし、マイケルは次の日も、また次の日も彼女の部屋に向かってしまうのでした。
   ある日のこと、彼はハンナに言われて地下から石炭を運びます。
   石炭の煤で真っ黒になったマイケルは彼女に言われてお風呂に。
   浴槽から出た彼を大きなタオルでくるんだのは、裸のハンナでした。
   その日から、放課後を待ちわびるようにハンナの部屋を訪れるマイケル。
   その時間にはハンナも路面電車の車掌の勤務を終えて帰ってくるのです。
   顔を合わせるや激しく愛し合う二人。
   そんなある日ハンナはマイケルに「本を読んで聞かせて」と頼みます。
   一心に朗読するマイケル。いつしか、それはベッドでの習慣になっていきました。

   マイケルの誕生日。友人たちがパーティを計画してくれました。
   パーティには参加せず、いつものようにハンナの部屋に向かったマイケル。
   なのに、不機嫌なハンナ。朗読するマイケルは邪険にさえぎられてしまいます。
   次にマイケルが部屋を訪れた時、部屋は空っぽに。
   書き置きすら残されてはいませんでした。
   立ちすくむマイケル。

   8年後、法学部の学生になったマイケルは戦争犯罪を裁く法廷の傍聴に出かけます。
   そして、そこで耳にした被告の声こそ
   あの日以来忘れたことのなかったハンナのものだったのです…

原作者のシュリンクは、ハンナ役には最初からケイト・ウィンスレットを思い描いていたそうです。
胸の奥深くになにかを秘めているような悲しげなまなざし
マイケルをとまどわせる不可解な行動
ミヒャエルの視線と思考から判断し、形作るしかなかったハナという女性が
ケイト・ウィンスレットによって、この映画で体現されました。

少年時代のマイケルを演じたデヴィッド・クロスも
思索的でありながら無垢な少年を見事に演じていました。
そして、大人になったマイケルを「イングリッシュ・ペイシェント」のレイフ・ファインズが
陰影と憂いの中に深く刻み込んでくれました。

圧倒的なキャスティングの妙であります。
ベルリン、ゲルリッツ、ケルンと、ドイツでの撮影にこだわった映像も加えて
「朗読者」は十二分に納得のいく映画化でした。

しかし、「タイタニック」のときのあのコロコロした女の子がここまで成長するとは。
ケイト・ウィンスレットに脱帽です。

愛を読む人
監督/スティーヴン・ダルドリー、脚本/デヴィッド・ヘア、原作/ベルンハルト・シュリンク、
製作/アンソニー・ミンゲラ、シドニー・ポラック
キャスト
ケイト・ウィンスレット/ハンナ・シュミッツ、レイフ・ファインズ/マイケル・バーグ、
デヴィッド・クロス/青年時代のマイケル・バーグ
6月19日(金)TOHOシネマズスカラ座他にて全国ロードショー
http://www.aiyomu.com/

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by mtonosama | 2009-05-17 05:58 | 映画 | Comments(12)
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© 2008 DREAMWORKS LLC and UNIVERSAL STUDIOS
 
路上のソリスト
THE SOLOIST

路上生活をする天才的な音楽家。彼は統合失調症をかかえている。
うーん、よくある深刻かつストイックな社会派映画でしょうか。
ハリウッド映画だし。
と、はなっから猜疑心むきだしで試写にのぞんだ殿です。

つかみは完全にハリウッドでした。
LAの高級住宅街をロードレーサーで疾走するロサンゼルス・タイムズの売れっ子コラムニスト
スティ-ヴ・ロペス。
ロペス氏、目の前を横切るアライグマをよけようとして派手にひっくり返る。
「おいおい、出社前に顔すりむいちゃってどうするよ」。
なんとも明るいオープニングシーンであります。

が、しかし
監督は英国人。「プライドと偏見」(‘05)のジョー・ライトです。
アメリカで映画を監督するのは初めてということ。
きっと純正ハリウッド映画とは違う匂いをどこかで感じさせてくれるかもしれません。

     《ストーリー》
      明るい太陽。道路のわきには丈高いパームツリーがそびえています。
      ここはキャリフォーニア、ロスアンゼルス。
      顔面半分擦過傷のあわれな顔をしたスティーヴ・ロペスがネタを求めて歩いていると
      美しいヴァイオリンの音色が流れてきました。
      ヴァイオリンを---それも、2弦しかないヴァイオリンを---弾いていたのは
      奇妙な格好をした路上生活者。
      ナサニエル・エアーズと名乗るその男はとめどなく言葉を繰り出します。
      言葉の洪水の中から
      〈彼がベートーヴェンを愛していること〉
      〈ジュリアード音楽院にいたこと〉
      などを拾いだしてロペスは驚きます。
      「ジュリアードの卒業生がなんで路上に!?」
      彼の記者魂に火がつきました。
      ナサニエルの姉と元教師を見つけ出し、取材。
      「少年時代からチェロを弾いていた」
      「本気で取り組めば世界がひれふす才能だった」
      ことなどがわかります。
      ナサニエルについて書いたコラムは評判を呼び
      感動して自分のチェロを送ってきてくれる読者まで現れました。
      彼にチェロを届け、車の行き交うトンネルでその演奏を聴いたロペス
      騒音も排気ガスも忘れ、めくるめく感動に包まれるのでした…

スティーヴ・ロペスが書いたコラムを映画化したこの作品は実話です。
―――脚本のスザンヌ・グラントは、ロペスが離婚したことにしたり
    ナサニエルには姉が一人しかいないことにしたり、
    事実と若干変えはしましたが―――
路上生活者で統合失調症の天才音楽家、というショッキングなお題を抱えてはいますが
この映画は実のところ、ナサニエルとの交流を通じてロペスの心が変わっていく様子を描いた
魂の物語ということがいえるかもしれません。

パームツリーの並木の下をローラーブレードで滑走する長くてきれいな足の女子。
LAといったら、そんなイメージしか持ちあわせていない米国未体験の殿にとっては
きらびやかなLAのその裏通りに生きる精神障害を抱えた
老若男女のホームレスの群れには驚きました。

でも、「僕はいつも、あまりに深刻ぶった映画というのは苦手なんだ」と監督自身語っている通り
そのホームレスのひしめく裏通りの雑踏ですら、夜市のにぎわいのように感じさせる映像でした。
イギリス人の目でみたLAの表と裏。余所者だからこそ描けるステレオタイプでないLAです。

精神障害者はかわいそう、あるいは、怖い…
という健常者の思いこみで、彼らを隔離し、強制的に薬を飲ませること。
それははたして正しいことなのでしょうか。

ナサニエルを見出した自分は彼の恩人であり、同時に、保護者であると
どこか‘上から目線’だったロペスに
「僕はあなたのことをMr.Lopezと呼んでいるのに、あなたは僕をナサニエルと呼ぶ」
というナサニエルの抗議がつきささるのでした。
「自分はこの音楽家を救いたかった…」
救う?ナサニエルを何から救うのでしょうか?

本人が治療を望まないなら、それもひとつの選択なのかもしれません。
ロペス同様、ナサニエルをかわいそうな人だと思っていた観客にも変化が訪れます。

ナサニエルは打算抜きで音楽を愛することのできる天才でした。
明るいだけのロスアンゼルスという偏見も消えました。
ジョー・ライト監督、ありがとうございます。

路上のソリスト
監督/ジョー・ライト、脚本/スザンナ・グラント、原作/スティーヴ・ロペス
キャスト
ジェイミー・フォックス/ナサニエル・エアーズ、ロバート・ダウニーJr./スティーヴ・ロペス
トム・ホランダー/グラハム・クレイドン、キャサリン・キ―ナー/メアリー・ウェストン(スティーヴの元妻)、リサ・ゲイ・ハミルトン/ジェニファー・エアーズ(ナサニエルの姉)、
5月30日(土)TOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー
http://rojyo-soloist.jp/

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by mtonosama | 2009-05-12 19:40 | 映画 | Comments(12)
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重力ピエロ

伊坂幸太郎のベストセラーの映画化作品です。

伊坂作品は「ゴールデンスランバー」の他に二三作読んだだけの殿は
「重力ピエロ」を読んでおらず

の連続放火事件、遺されたの落書き。
落書きと遺伝子暗号の奇妙なリンク。
すべてのが解けたとき、24年前から今へとつながる家族の秘密が明らかになる…》


という《謎》続出の映画チラシのコピーに緊張しました。
これは心してかからないと…

        あまり読んでないくせに偉そうに言うのもなんですが
        伊坂作品の主人公に共通するのはおっとり癒し系、草食系男子が多いような。
        ミステリーですから、次はどうなる?あの人はなんなの?的な
        展開を焦る気持ちをあおってもくれるのですが
        どこか穏やかな伊坂ワールド。

満開の桜の中、春が二階から落ちてきたからなんでしょうか?

あ、春っていうのはこの映画の主人公、仲良し兄弟の弟の名前です。
春を演じるのは岡田将生。
春の兄・泉水(いずみ)を演じる加瀬亮。
イケメンと草食系男子代表。
落書き消し屋の弟と遺伝子学専攻の大学院生の兄。
兄弟でありながら、全然違うところもこの映画の「謎」につながる重要なポイントです。
そして、この二人の父親を演じる小日向文世。早逝する母親役の鈴木京香。
当世風美少年と、まったりおっとり穏やかな俳優陣が登場する「重力ピエロ」は、
大変な事件を抱えながらも、地方都市とひとくくりにするには失礼なほどの大都会・
仙台を舞台に、日常の一風景のように進行します。

        若く美しい母親が乳母車の息子に聞かせるように楽しげに歌いながら
        仙台の街を見はるかす坂道を一歩一歩上がっていく。

        サーカスに興じる親子4人。空中ブランコを見上げながら
        「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんて消してしまえるんだよ」
        と幼い兄弟に語る両親。

        病院から帰った父が成長した兄弟に
        「ガンだって」
        とスーパーでネギでも買ってきたみたいに軽く報告する。

        「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」
        と春は落ち込む兄・泉水に言う。

「謎」という言葉の連続に身構えた殿でしたが、軽く発せられているのに
ずーんと沁みこむいくつかのせりふや印象的なシーンが
無理なくエンディングへと連れていってくれました。

        「重力ピエロ」の単行本が出版された直後(‘03)に
        映画化オファーをしたという企画・脚本の相沢友子さんは
        ミステリー重視の脚本にするか、家族のドラマを前面に出すか
        ずいぶん迷ったということです。

事件というのは生活の延長として起こっているんですよね。
映画の中の事件がテレビに映し出されるニュース映像で観客に提示されることも
日常性を逆手にとったうまい演出です。
「事件は現場で起こってるんじゃない。テレビの中で起こっているんだっ」
かも。

「読んでから観るか」「観てから読むか」。
小説が映画化されるとき、必ず使われるキャッチフレーズですが、
さあ、どうしましょう?

重力ピエロ
監督/森淳一、原作/伊坂幸太郎「重力ピエロ」(新潮社刊)、脚本・企画/相沢友子
キャスト
加瀬亮/奥野泉水、岡田将生/奥野春、小日向文世/奥野正志、吉高由里子/夏子、
岡田義徳/泉水の友人、渡部篤郎/葛城由紀夫、鈴木京香/奥野梨江子

4月25日(土)より宮城先行ロードショー
5月23日(土)より全国ロードショー
http://jyuryoku-p.com/

 ♡お得なお知らせ♡ 
「重力ピエロ」原作本持参割引キャンペーン
「重力ピエロ」(単行本でも文庫本でも)を映画館に持っていくと
当日窓口料金が一般:200円、学生:100円が割引きされます♪

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by mtonosama | 2009-05-04 06:30 | 映画 | Comments(10)
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ごあいさつ

当試写室へご来場いただき、誠にありがとうございます。
おかげさまで、「殿様の試写室」は今月で満1年を迎えました。

試写映画の中から
好きな作品、あるいは気になる作品という
まったく自分勝手な基準で選んだものを
当試写室では上映させていただいております。

今後ともご贔屓のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

殿

予告編
ごあいさつの後、「重力ピエロ」を上映いたします。
「重力ピエロ」の次の上映は12日か13日です。

皆さまのまたのご来場を心よりお待ち申し上げております。




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by mtonosama | 2009-05-04 05:48 | 映画 | Comments(6)
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(C)2008 MK2 SA-France 3 Cinema

夏時間の庭

オルセー美術館開館20周年記念作品という惹句に魅かれて観た映画です

     オルセー美術館が2006年に開館20周年を記念し
     美術館を自由に使って撮影する映画を製作しようと企画したのだそうです。
     それに関心を持ったオリヴィエ・アサイアス監督が
     美術品と家族をモチーフにオリジナル脚本を書き
     オルセー美術館の協力を得て完成させた作品がこの「夏時間の庭」です。

         オルセー美術館はセーヌ川に面して建つ国立美術館。
         印象派の作品が多いことでも知られていますが
         二月革命の起きた1848年から第一次大戦勃発の1914年までの美術品が
         収蔵されている美術館です。
         それ以前の美術品はルーブル美術館に
         それ以後はポンピドゥ・センターに、という区分けになっているのだとか。
         1900年パリ万博に合わせて建築されたという
         オルセー駅の鉄道駅舎兼ホテルを
         1986年に生まれ変わらせたのがオルセー美術館。
         駅舎の形そのままの吹き抜けの高い天井から注ぎ込む陽光の中で
         作品を鑑賞できるすばらしい美術館です。

「夏時間の庭」というタイトルにも魅かれます。
繁茂する草木。
少し古びた鋳鉄のガーデンテーブルと椅子。
水滴のついたガラスピッチャーの中で光を受けて輝くピンクレモネード。
藤の花の甘い香りも鼻先に漂ってくるような。
女子の好きなアイテムをたくさん連想させてくれるタイトルだと思いませんか?

誰の心にも存在する甘く安らぎに満ちた記憶。その中心にある家族、そして家。
でも、それらはいつか無情にも私たちから切り離されていきます。
それでも、残るものがあるとしたら…
「夏時間の庭」は心魅かれるタイトルとともに、温かい安心感を与えてくれる映画です。

        《ストーリー》
        パリ郊外にある緑濃い静かな邸宅。
        画家であった大叔父から受け継いだ家で、多くの美術品に囲まれて
        母エレーヌは家政婦のエロイーズと静かに暮らしています。
        今日はエレーヌの75歳の誕生日。
        緑陰の庭には長男夫婦、次男夫婦、長女と
        5人の孫たちがお祝いに集まっています。
        なのに、エレーヌは長男のフレデリックに
        「私が死んだら、家も美術品も売ってほしい」と頼むのでした。
        フレデリックは「何も売らない。僕たちが受け継ぐよ」と
        母の不吉な依頼を断ち切るように答えます。
        一年後の大叔父の回顧展での再開を約し
        子供たちはそれぞれの場所へ帰っていきます。
        経済学の教授である長男はパリに
        次男のジェレミーは技術者として上海に
        工芸デザイナーの長女アドリエンヌはNYに。

        回顧展で一年ぶりの邂逅を果たした子供たちを襲った母エレーヌの突然の死。
        葬儀の後、三兄妹は膨大な美術品と邸宅という母の遺産と向き合います。
        長男フレデリックは三人で受け継ぎたいと思っているのですが
        長女アドリエンヌはアメリカ人の恋人との結婚を
        次男は中国に生活の拠点を移すことを決めていました。
        三兄妹の気持ちとはうらはらに
        幼い日の思い出のつまった家は売却、美術品はオルセー美術館に寄贈することに…

この映画の主題は家族と家です。
家は、多くの美術品が生活の道具として息づく場であると同時に
親から子、孫へと伝わっていく故郷であり、原点であり、遺伝子のようなもの。

エレーヌの書斎にはルイ・マジョレルの机が置かれ
(エミール・ガレとともにナンシーで活躍したアール・ヌーヴォーの家具デザイナー)
アトリエの壁にはルドンの絵がかけられています。
なんとエレーヌの息子たちが子供時代に壊してしまったドガの彫刻のかけらも
(もちろん、これは映画の中でのお話でオリジナルはちゃんとありますので、ご安心を)。
美術館ならキュレーターが白い手袋をはめて手にするような美術品が
この家にはさりげなく置かれています。
美術品も、家のなかに場所を占めることによって、家族の心の風景になっていきます。

     家族は過去の追憶の中にだけあるものではなく
     子や孫の世代に静かに受け継がれていくものであることをそっと教えてくれる映画。
     父や母のいた日々を思い出して、とてもせつなくなりましたが
     ときに落ち込む心を孤独の淵から救い出してくれる、そんな優しい映画です。

夏時間の庭
監督・脚本/オリヴィエ・アサイアス
キャスト
ジュリエット・ビノシュ/アドリエンヌ、シャルル・ベルリング/フレデリック
ジェレミー・レニエ/ジェレミー、エディット・スコブ/エレーヌ、ドミニク・レイモン/リーザ、
ヴァレリー・ボストン/アンジェラ、カイル・イーストウッド/ジェームス、
イザベル・サドワイヤン/エロイーズ
5月16日(土)銀座シアトルシネマほか全国順次公開
http://natsujikan.net/

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by mtonosama | 2009-04-28 05:29 | 映画 | Comments(8)
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(C)2009「60歳のラブレター」フィルムパートナーズ

60歳のラブレター
LOVE LETTERS at SIXTY

恋とか愛は若い人の専売特許みたいな固定観念が、日本の社会には蔓延しておりまして
それは例えば映画を作る側にも、そして、それを観る側にもしみついております。
ところが「60歳のラブレター」では
50代から60代の初老?熟年?(形容詞が難しい…)カップル3組が主人公。
若くはない男女間の愛の物語を等身大に描いた映画ですが
これって今までになかったパターンではないでしょうか。

団塊の世代に属するこの年代は生まれた時から人数が多く
小中学校では1クラス60人近い同級生の間でもまれるという目にも会ってきましたし
高校時代にはリアルタイムでビートルズやローリングストーンズに触れ
大学時代はバリケード封鎖で授業を受けず
就職すればすぐに石油ショックでもみくちゃに
結婚して家庭を持てばニューファミリーともてはやされ
その後は順調に右肩上がりでやってきたものの
定年間際になって年金問題や不景気でふりまわされている世代。
つらい思いもしたけれど、良い思いもたくさんしてきた年代です。

人数が多いですから、その存在自体、主張性が高い、声がでかい。
というわけでもないでしょうが、アラ還という年齢でありながら
恋愛映画の主人公になってしまいました。
それも世代を反映してか、6人もの群像主人公です。

   主人公は団塊世代、監督は団塊Jr.世代の深川栄洋。
   まだ33歳と若い監督ですが、昭和30年代の空気をなぜかよく知っています。
   彼の初の劇場用長編映画「狼少女」(‘05)を観たとき
   「なんで、まだ生まれてもいない昭和の30年代を自分が体験したかのように描けるの!?」
   とびっくりしたものです。
   団塊Jr.の深川監督、団塊世代の愛の物語をどんな具合に料理してくれるのでしょう?

      《ストーリー》
      高度成長期、仕事一筋で大手ゼネコンの重役にまで上りつめた孝平に
      定年退職の日がやってきた。
      今後は恋人が経営する建設事務所で、共同経営者としてやっていくつもりだ。
      退職の今日も、祝膳を整えて待つ妻ちひろを思いやることなく恋人のマンションに直行。
      妊娠中の一人娘も退職祝いに駆けつけたが、孝平は帰宅しない。
      専業主婦のちひろは父が勧めた孝平と結婚して30年。
      文句ひとつ言わず家族のために尽くしてきたが、夫の退職を機に離婚を決意…

      ちひろが尾頭付きの鯛を買った魚屋の夫婦
      正彦と光江は口を開けば喧嘩ばかりしている。
      しかし、正彦が糖尿病になってからは、光江は夫の食事に気を遣い、
      毎晩二人でウォーキングも欠かさない。
      ある晩、正彦は楽器屋の店先にマーチンが飾られているのを見つける。
      マーチンと言えばポール・マッカートニーの弾いていたあのギター。
      その昔、正彦がビートルズのコピーバンドをしていた頃からの憧れの名器だ…

      その正彦が通う内科医の佐伯は5年前に妻を亡くし
      現在は中3の娘と2人暮らし。
      アメリカのTVドラマ「ベン・ケーシー」に憧れて医者になったが
      出世コースからは大きく外れてしまった。
      ところが、最近海外医療小説の監修のアルバイトを始め
      監修を依頼してきた翻訳家の麗子と会える日はなんとなく心が浮き立つ。
      麗子もまた、真面目で不器用な佐伯に好意を抱いていた…

つながりがないようでいて、どこかでつながる3組の男女。
みんなおじさんおばさんばかりだから、華やかでロマンチックな恋愛からは程遠い。

だけど、人生うまくいったと思っている男の意外な挫折感
取り柄といったらとことん憎ったらしいだけの女房の思わぬ病
静かではあるけれど華やぎのない人生に訪れた心ときめくひととき。

        これはもう老若問わず誰にでも訪れる人生の禍福。
        年齢に応じた事件や恋愛なんてないのかもしれません。
        新しい愛に出会うときも、古いつきあいに改めて気づくときも
        人は初めての体験のように心がときめくものなのかも。

試写室で殿の両隣の若い女性編集者がラストで大泣きしていました。
これはどうもアラ環世代だけの映画ではないようです。

60歳のラブレター

監督/深川栄洋、脚本/古沢良太
キャスト
中村雅俊/立花孝平、原田美枝子/立花(小山)ちひろ、井上順/佐伯静夫、
戸田恵子/長谷部麗子、イッセー尾形/松山正彦、綾戸智恵/松山光江
配給/松竹
5月16日(土)全国ロードショー
www.roku-love.com

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by mtonosama | 2009-04-23 05:41 | 映画 | Comments(8)
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ウェディング・ベルを鳴らせ!
Promets Moi


エミール・クストリッツァという監督さんは旧ユーゴスラヴィア
(現在はボスニア・ヘルツェゴビナ)サラエヴォの生まれです。
「黒猫・白猫」あたりからこの監督の映画を観ていますが
なんといっても好きなのは“ウンザ・ウンザ”サウンド。
この地方特有の音楽でしょうが、とてもいい感じなのです。
映画パンフ見て、初めて知った言葉“ウンザ・ウンザ”サウンド
なるほどウンザッ、ウンザッと走ってる感じがする音楽です。

  「ウェディング・ベルを鳴らせ!」はクストリッツァ監督4年ぶりの新作。
  オムニバス「それでも生きる子供たちへ」(‘05)中の一編「ブルー・ジプシー」以来の映画です。

ゲルマン民族大移動の頃のヨーロッパはこんな感じ?と思わせるセルビアの山村を
ウンザッ、ウンザッと駆け回る元気なじいちゃん、ばあちゃん、おじさん、おばさんたち。
さらに、さらに、大砲から飛び出した人間が空を飛んでるし、もうクストリッツァ・ワールド全開です。
「ブルー・ジプシー」で主人公を演じたあの可愛いウロシュ・ミロヴァノヴィッチくんが
ちょっと大きくなって登場。
主役のツァーネ少年を演じ、この村の平均年齢をほんの少し下げることに貢献しています。

        《ストーリー》
        セルビアの山奥でおじいちゃんと牛と猫と暮らすツァーネ少年。
        お隣には、おじいちゃんを追って町からやってきた女性ボサが住んでいます。
        発明好きなおじいちゃんの作ったおかしなメカに囲まれて
        のんびり暮らしていたツァーネくんでしたが、ある日突然学校が廃校に。
        おじいちゃんの追っかけ、村の先生のボサも失業です。
        おじいちゃんはツァーネくんに3つの約束をさせて、町へ行かせます。
        それは
        1.牛を売ったお金で、聖ニコラスのイコンを買う
        2.自分の好きなお土産を買う
        3.ツァーネの花嫁を村に連れてくる

        都会へやってきたツァーネくん。
        聳えるビルや過激なファッションの女の子に目を白黒させながら、町を歩いていると
        早速、美しい女子高生ヤスナに一目惚れ。
        これはまたなんと幸先の良いことでしょう。
        ところが、そう簡単にことは運ばない。
        セルビア初の世界貿易センタービル建設を企むマフィアが
        ツァーネの前に立ちふさがったのです。
        そのマフィアのボスがヤスナの美しさに目をつけて
        娼館で働かせようというのだから、大変。
        さあ、ツァーネ少年はヤスナをマフィアの手から取り戻し
        花嫁として村へ連れ帰ることはできるのでしょうか…

ウンザッ、ウンザッとストーリーは展開します。
その舞台となった村は前々作「ライフ・イズ・ミラクル」(‘04)のロケ地だった場所。
その場所が気に行ったクストリッツア監督は土地を買い取り、自分の村を造ってしまいました。

これまでの映画では戦争を描きながらも
その中にクスッと笑わせるものを詰め込んでいたクストリッツァ監督。
戦争すらも生活の一部と化してしまうふてぶてしいまでの逞しさが身上でした。
今回はセルビアの街にも襲い来るグローバリズムの大波が背景に。

今や、日本も外国も、都会はみんな同じような貌になってしまいました。
太古の昔から変わらないようなこの村と、高層ビルやマフィアのいる都会。
どっちがいいか、なんて選べないかもしれないけど、どっちが自然かはよくわかる。
ここでも、またクストリッツァはウンザッ、ウンザッと走ります。
牛も猫もニワトリも重要なキャスト。
戦争もグローバリズムも人の営み。
最後に勝つのは始原のエネルギーかも、と一緒に走りながら思えてくる映画です。

ウェディング・ベルを鳴らせ!
監督/エミール・クストリッツア、音楽/ストリボル・クストリッツァ、
製作/オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエ、マーヤ・クストリッツア、エミール・クストリッツア
キャスト
ウロシュ・ミロヴァノヴィッチ/ツァーネ、マリヤ・ペテロニイェヴィッチ/ヤスナ、
アレクサンダル・ベルチェック/祖父、ミキ・マイノロヴィッチ/マフィアのボス
4月25日(土)シネマライズ他全国順次ロードショー
http://www.weddingbell.jp/

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by mtonosama | 2009-04-18 05:36 | 映画 | Comments(6)
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(C)2008 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ミルクMILK

ショーン・ペンは嫌いです。
ん?確か、前にもこんなこと言ったような。
そう、そう、彼が監督した「イントゥ・ザ・ワイルド」を紹介したとき(‘08年8月)だった。

はい。嫌いなことは嫌いなんです。
なんか妙に自信過剰で、男くさい(これって、マドンナとの結婚・離婚騒動で刷り込まれた印象かもしれませんが)。

その男くさいショーンがゲイの政治家を演じたのが「ミルク」。
この映画でショーン・ペンはアカデミー賞最優秀主演男優賞を
脚本を書いたダスティン・ランス・ブラックは最優秀脚本賞をとりました。

ミルクって牛乳じゃあなく、ハーヴィ・ミルクという実在した人物のことです。
1999年「タイム誌が選ぶ20世紀の100人の英雄」に選ばれた人で
ゲイであることを公表してアメリカで初の公職についた人
それが、この「ミルク」で描かれるハーヴィ・ミルク。

        1978年11月27日
        サンフランシスコ市々政執行委員(日本で言えば市議です)の
        ハーヴィ・ミルクが撃たれました。
        犯人は同じ市政執行委員のダン・ホワイト。
        敬虔なキリスト教徒であり、地元の保守層の票を背景に当選した彼は
        ゲイであるミルクの華々しい政治手法に不満を感じていたのです。

この映画には、ひとりの同性愛者がウォール街での安定した職を捨て
70年代、サンフランシスコのゲイ・コミュニティの声を代弁し
さらに社会的弱者やマイノリティのために闘い続け、
志半ばで斃れるまでの8年間が描かれています。

        《ストーリー》
        1972年、ニューヨーク。
        地下鉄の階段でハーヴィ・ミルクは20歳年下のスコット・スミスと出会い
        恋に落ちる。
        二人はサンフランシスコへ。
        ゲイやヒッピー達が大勢暮らすカストロ地区で、髪を伸ばし
        気ままな暮らしを楽しんでいた。
        やがて自分たちのアパートの1階に「カストロ・カメラ」という小さなカメラ屋を開業。
        店にはゲイやヒッピーをはじめ、周辺の商店主や住民も集まり
        情報交換の場となっていた。
        しかし、周辺には同性愛者たちを快く思わない保守的なカトリック系の商店主達も
        多く暮していた。
        ミルクは差別的な商工会に対抗し、新しい商工会を結成。
        恋人のスコットやカストロ・カメラに集まる人々の協力を得て
        地元商店街や住民の抱える問題に関わっていく。
        やがて彼は「カストロ・ストリートの市長」と呼ばれるように。
        1973年にはサンフランシスコの市政執行委員に立候補し
        すべての人のための権利と機会の平等を求めて選挙を戦うが、落選。
        やがて、政治の世界にのめりこみ、次第に大きな存在になっていくハーヴィから
        恋人のスコットは去っていく。
        77年、4度目の選挙で当選。
        「アメリカよ、目覚めよ。人種差別、性差別、年齢差別はやめよう。
        憎しみあうことはやめにしよう。
        われわれはもう悩むことなく、クローゼットに隠れることもない。もう二度と!」

        彼は高らかに声を上げる。
        ミルクはアメリカ史上において、同性愛者であることを公言して
        選ばれた初めての公職者となった。
        当選を喜ぶ支援者の中には新しい恋人ジャック・リラ
        選挙参謀の同性愛者の女性アン・クローネンバーグ
        そして、スコットの姿もあった。
        委員就任後、公共・福祉政策の立案で住民の賛同を得たミルクの前に
        立ちふさがったのは同性愛者の教師は解雇できるという案件だった…

映画はミルクがマイクに向かって語る思い出や決意をはさみながら進行します。
その言葉の中には
私のような人間、すなわち活動家であり、ゲイである者は、
不安で臆病で怖がりで気持の乱れた人の標的になる恐れがあることを十分理解している
」(1977年録音)
というものも。
彼は死を覚悟して活動していたんですね。
70年代のアメリカはまだまだそんな時代だったということです。

        それにしても、いつも思うのですが、アメリカの政治家はかっこいい演説をします。
        「映画だからね」なんて思っていたけど
        オバマ大統領のスピーチは映画よりかっこいいじゃないですか。
        日本の政治家も、もっと胸にぐさりとくる真実味のある言葉を
        発してもらいたいものです。

この映画にはミルクの近くにいた彼の友人たちも出演しています。
彼らはまた脚本家ダスティン・ランス・ブラックのリサーチに協力
撮影現場で多くの時間を過ごし、俳優たちの役作りにも貢献しました。
「ミルク」の中に闘う70年代の昂揚感や緊迫感がみなぎっているのは
ミルクを間近に見て、共に行動した彼らの思いが反映しているからかもしれません。

ミルク
監督/ガス・ヴァン・サント、脚本・製作総指揮/ダスティン・ランス・ブラック
キャスト
ショーン・ペン/ハーヴィ・ミルク、ジェームズ・フランコ/スコット・スミス、
ジョシュ・ブローリン/ダン・ホワイト、アリソン・ピル/アン・クローネンバーグ
4月18日(土)、シネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、新宿バルト9他にて全国ロードショー
http://milk-movie.jp/enter.html

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by mtonosama | 2009-04-14 06:12 | 映画 | Comments(12)