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殿様の試写室

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殿が観た最新映画をいち早くお知らせ!

<   2010年 04月 ( 10 )   > この月の画像一覧

パリ20区、
僕たちのクラス
-1-
Entre les murs


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© Haut et Court – France 2 Cinéma

「パリ20区、僕たちのクラス」―-

区って、千代田区とか、港区とか、いまいち具体的過ぎるし、
イメージが固定されてしまいますね。
でも、パリ20区だと、なんかおしゃれ。
(原題は”Entre les murs”(「壁の内で」)と邦題とはまったく違いますけれど)

20区ってどんなところなんでしょうか?

パリの街は、ルーブル美術館のある1区から時計回りにカタツムリの殻みたいな形で
区分されています。
その殻の最後、カタツムリが槍やら角やら頭やらを出す場所にあたるパリ北東端にあるのが20区。
昔から労働者や移民の多い地区です。

区内にはベルヴィル公園やエディット・ピアフの生家、
コローやショパン、ビゼー、プルースト、マリア・カラス、モジリアー二、モリエール、ジム・モリソンらが
眠るペール・ラシェーズ墓地もあります。

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そんな20区に実在するフランソワーズ・ドルト中学校がこの映画の舞台。
出演者は担任役の先生以外、生徒も教師も皆本当にこの学校に通う人々。
親たちも生徒たちの本当の親です。

殿はこの映画を観る前、そして、観ているときも、
ずっとドキュメンタリー映画だと思っていました。

というのも、「ぼくの好きな先生」(‘02)――― 
フランス・オーベルニュ地方の小さな学校に通う
3歳から11歳までの13人の生徒たちが
大好きなロペス先生と過ごす1年間の学校生活を描いた作品―――

未来の食卓」(‘08)http://mtonosama.exblog.jp/11566950 ――― 
学校給食と高齢者向けの宅配給食にオーガニック食材を導入した南フランス・バルジャック村の
試みを追った作品―――
といった学校関係のフランス製ドキュメンタリー映画を観たので、
「パリ20区、僕たちのクラス」もドキュメンタリーだよね、と思い込んでしまったのです。

しかし、観ている間もまだドキュメンタリーだと思うほど、
子どもたちの演技は自然でした。
言ってしまえば、フランス版「金八先生」?
(3年B組の生徒たちより、もっと自然体でしたけれど)

その金八先生にあたるのが担任のフランソワ先生。
彼、フランソワ・べゴドーが2006年に発表した小説「教室へ」がこの映画の原作です。
フランソワ・べゴドーは脚本にも参加し、さらに先生役として出演もしています。

フランソワ・べゴドー
1971年生まれ。両親も教師。ナント大学で現代文学を学び、中学・高等教育の教員資格を取得。19区にある中学校で2年間、国語教師を勤めました。教員の立場を生かして、執筆活動も始め、2003年に処女作”Jouerjuste”、2年後には”Dans la diagonal”を発表。2006年に発表した「教室へ」がラジオ局フランス・キュルナールと雑誌「テレラマ」共催の文学賞を受賞し、20万部を売り上げるベストセラーとなりました。
雑誌、新聞にも積極的に執筆し、テレビコラムなどにも出演。断定的な表現やユーモアを織り込みながら、自由奔放な発言で世間の常識に挑み続けています。

映画に登場する24人の生徒たちはアフリカ系、イスラム系、中国系あり。
「どこから来たの?」と訊いていたら、
話が終わらないほどさまざまな国からやってきた移民の子供たちです。
良い子ばかりじゃないし、生意気なことは言うし、
「おいおい、それはないだろ」みたいなことはやってくれるし、
フランソワ先生がイラッと来ている様子に共感しつつ、
生徒たちの自己主張にも納得したり。
観客としては、先生、生徒、どちらのスタンスにも立てる、
良い意味で忙しい映画です。

だからでしょうね。
第61回カンヌ国際映画祭で、フランス映画としては21年ぶりのパルムドール(最高賞)を
獲得してしまいました。

さて、一体、どんなお話なのでしょうか。
それは次回までのお・た・の・し・み。

To be continued.

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パリ20区、僕たちのクラス
監督/ローラン・カンテ、脚本/ローラン・カンテ、フランソワ・べゴドー(「教室へ」早川書房)、ロバン・カンピヨ、撮影監督/ピエール・ミロン、製作/キャロル・スコッタ、キャロリーヌ・ベンジョ、バルバラ・ルテリエ、シモン・アルナル、編集/ロバン・カンピヨ、音響/オリヴィエ・モヴザン、アニュス・ラヴェズ、ジャン=ピエール・ラフォルス、衣装/マリー・ル・ガレック、制作担当・助監督/ミシェル・デュポア、ホストプロダクション/クリスティナ・クラサリス
出演
フランソワ・ベゴドー/フランソワ先生
ナシム・アムラブ/ナシム、ローラ・バケラー/ローラ、シェリフ・ブナイジャ・ラシェディ/シェリフ、ジュリエット・デマーユ、ダラ・ドゥコワ―ル/ダラ、アルチュール・フォレジュ/アルチュール、ダミアン・ゴメズ/ダミアン、ルイーズ・グランベール/ルイーズ、チーフェイ・ホァン/チーフェイ、ウェイ・ホァン/ウェイ、フランク・ケイタ/スレイマン、アンリエット・カサルアンダ、リュシー・ランドロヴィー/リュシー、アガム・マレンボ・エメネ/アガム、ラバ・ナイト・ウフェラ/ラバ、カルル・ナノール/カルル、エスメラルダ・ウェルタニ/エスメラルダ、ビュラク・オジルマズ/ビュラク、エヴァ・パラディゾ/エヴァ、ラシェル・レグリエ/クンバ、アンジェリカ・サンシオ/アンジェリカ、サマンタ・スピロ/サマンタ、ブバカール・トゥレ、ブバカール、ジュスティーヌ・ウー/ジュスティーヌ
ジャン=ミシェール・シモネ/校長、アンヌ・ラングロワ/ソフィー先生、ジュリー・アテノール/教育指導主宰CPE
6月12日(土)より岩波ホール他全国順次ロードショー
2008年、フランス映画、128分、配給:東京テアトル
http://class.eiga.com/

by mtonosama | 2010-04-30 05:30 | 映画 | Comments(8)
パーマネント野ばら -2-
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             (C)2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

抒情―――でした。

抒情とは、広辞苑には〈自分の感情を述べ表すこと〉とあります。
あれ?案外、当たり前のことなんですね。
ま、感情ですから、笑いも恋も驚きもエッチもなんでもあり、ということなんでしょう。

映画の冒頭、ぬるくて、ゆるい音楽が流れます。
土佐の輝く海を遠景に、子供用の真新しいピンクの自転車の車輪が
アップになってカラカラと回っています。
「なおちゃ~~ん、待ってやぁ」という子どもの声がかぶさり―――

〈永遠の野ばら〉にとりつかれている殿は「う~ん、ありがちだなぁ」と
どこまでも意地が悪い観方をしています。
しかし、なおちゃんを追いかけるはしっこそうな女の子・みっちゃんと
ぞろりとした女の子・ともちゃんが出てくるあたりから、
ちょっと変わってきました。
野ばらの魔法にかけられてしまったようです。
さて、ストーリーは―――

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ストーリー
小さな漁港に面したパーマ屋さん「野ばら」。
一人娘のももを連れて出戻ったなおこ(菅野美穂)と、その母まさ子(夏木マリ)が
切り盛りしている、町に一軒きりの美容室です。
そこは町の女たちが夫の悪口や虚実ないまぜにした恋の話をして憂さを晴らす社交場。

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まさ子には夫のカズオ(宇崎竜童)がいますが、カズオは女の家に入り浸り。
なおこは母を気遣い、カズオに会いにでかけ「お母ちゃんのところに戻って」と頼むのですが、
カズオの訳のわからない理屈に押し切られてしまいます。

なおこの友達でフィリピンパブを経営しているみっちゃん(小池栄子)は
夫のヒサシ(加藤虎ノ介)に手を焼いています。
ヒサシは店の女の子に手をつけ、みっちゃんには金の無心ばかりするダメ亭主。
いつもは見ないふりをしてきましたが、今度の浮気は本気じゃなかろうか、と
不安と怒りが爆発したみっちゃん。
ラブホテルから出てきた浮気相手を車で轢き殺そう(!)と実力行使に出ました。
ところが、車にぶつかったのは浮気相手をかばった亭主。
みっちゃんも大けがをして夫婦で病院に運ばれます。

なおこの友達ともちゃん(池脇千鶴)は男運最悪。
つきあったすべての男から手ひどい仕打ちを受けてきました。
今はギャンブルに溺れて行方不明になった亭主を心配する日々。
ある日、なおことまさ子はゴミ屋敷に暮らす老夫婦の髪を切りに行った帰途、
山道でボロボロになったともちゃんの夫ユウジ(山本浩司)にバッタリ。
なおこはユウジからスロットマシンのコインをともちゃんに渡すようにと
ことづけられました。

一方、なおこにも理科教師をしているカシマ(江口洋介)という恋人がいます。
学校の実験室で、あるいは、旅館で、海岸で、デートを重ねる2人でしたが…

大笑いの後に、え?とはぐらかされ、
そして、リリック(抒情詩)の世界に浸らせられる―――
そうか、これだったか。サイバラマジック。

はしっこいまま大人になったみっちゃんが
「なおちゃん、男に都合のよい女を自分でつくる必要はないきに」と慰めるのを聞いて、
みっちゃんはボーヴォワールを超えた、と思いました(笑)。
ボーヴォワール女史は「女に生まれるのではない、女になるのだ」と言いましたが、
昔っから、土佐の女はおばさんになることで自分を守ることができるんですよ。きっと。

ところで、西原さんは自作が映画化されると、必ず映画のどこかに顔を出すのだそうです。
そうです、そうです。ヒッチコックみたいに。
さて、本作ではどこに顔を出しているか?
わからなかった殿のために、どなたか「パーマネント野ばら」をご覧になって教えてくださいませ。

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パーマネント野ばら
監督/吉田大八、原作/西原理恵子「パーマネント野ばら」(新潮社刊)、脚本/奥寺佐渡子、撮影/近藤龍人、照明/藤井勇、録音/矢野正人、美術/冨田麻友美、装飾/佐藤孝之、編集/岡田久美、音楽/福原まり、音楽プロデューサー/日下好明、主題歌/さかいゆう「train」(アリオラジャパン/オーガスタレコード)
出演
菅野美穂/なおこ、小池栄子/みっちゃん、池脇千鶴/ともちゃん、夏木マリ/まさ子(なおこの母)、宇崎竜童/カズオ、江口洋介/カシマ、畠山紬/もも、加藤虎ノ介/ヒサシ、山本浩司/ユウジ
5月22日(土)新宿ピカデリー、シネセゾン渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
配給/ショーゲート、2010年、日本、上映時間100分、
公式HP:http://www.nobara.jp/

by mtonosama | 2010-04-27 06:36 | Comments(10)
パーマネント野ばら  -1-



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(C)2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

最初、このタイトルを見て、〈パーマネントな野ばら〉つまり〈永遠の野ばら〉だと思い込みました。
で、脳裏に浮かんだのは瞳にお星さまがキラキラして、髪を縦ロールにしたお姫様風女子の姿。
髪は金髪です(どんな映画じゃ!)。

そんなわけで、なかなか観る気になれずにいたのですが、
菅野美穂8年ぶりの主役だというし、原作は西原理恵子だというし、
ま、ちょっと行ってみましょうか、と渋谷の試写室へ足を伸ばしました。

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そしたら、「パーマネント野ばら」っていうのは
〈パーマネント屋さん「野ばら」〉という意味ではないですか。
そりゃ、勝手に、縦ロールでお星様キラキラ女子を思い浮かべた殿が悪いんですけど…




西原理恵子の漫画というと四角い口の「毎日かあさん」とか、
週刊朝日の「恨ミシュラン」くらいしか読んだことがありません。
ところが、去年は「いけちゃんとぼく」(‘09 6月公開)「女の子ものがたり」(‘09 8月公開)
の2本が立て続けに映画化。
そうそう、鳳蘭がとんでもないかあちゃん役を演じた「ぼくんち」(‘03 4月公開)もありましたね。
そして、今年はこの「パーマネント野ばら」。さいばらさん、売れっ子です。

1964年高知県生まれの西原さん、可愛い顔をしていらっしゃいますが、
なかなかヤンチャな過去をお持ちです。
作品はそんな体験を活かした無頼派ギャンブル編と無頼派体験記編、そして、抒情派
とバラエティに富んでいます。

本作「パーマネント野ばら」は抒情派。

でも、でもね、パーマ屋さんにパンチパーマ(!)かけに来る
おばちゃんたちの話がすっごいんです。
女の本音炸裂。抒情でこんなに大笑いさせられるって…

「裏の麻雀にはまったら、終わりじゃき」(土佐弁です。「龍馬伝」を思い出しながら読んでくださいね)
とともちゃんがつぶやく真に迫ったセリフ。
無頼派ギャンブルの側面も随所に顔をのぞかせ、大いに勉強になりますきに。

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土佐の小さな港町の小さなパーマ屋さんで繰り広げられるおばちゃんたちの
他愛なくって、ちょっとエッチなおしゃべり。
おばちゃんたちは笑い飛ばしてはいるけれど本当は不安で切ない胸の内。
ドロドロ男女関係真っ最中の若い女たち。
若いのもおばちゃんも、女たちはパーマ屋「野ばら」で泣いたり笑ったりしながら、
明日への英気を養います。

以前、当試写室で上映したレバノンの美容院の話「キャラメル」を思い出しました。
http://mtonosama.exblog.jp/10242253
町の小さな美容院って洋の東西を問わず女の憂さの捨て所なんですね。

うん?ところで、どこが抒情的なんだ?
それは、次回までのお楽しみということで―――

To be continued.

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パーマネント野ばら
監督/吉田大八、原作/西原理恵子「パーマネント野ばら」(新潮社刊)、脚本/奥寺佐渡子、撮影/近藤龍人、照明/藤井勇、録音/矢野正人、美術/冨田麻友美、装飾/佐藤孝之、編集/岡田久美、音楽/福原まり、音楽プロデューサー/日下好明、主題歌/さかいゆう「train」(アリオラジャパン/オーガスタレコード)
出演
菅野美穂/なおこ、小池栄子/みっちゃん、池脇千鶴/ともちゃん、夏木マリ/まさ子(なおこの母)、宇崎竜童/カズオ、江口洋介/カシマ、畠山紬/もも
5月22日(土)新宿ピカデリー、シネセゾン渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
配給/ショーゲート、2010年、日本、上映時間100分
公式HP:http://www.nobara.jp/

by mtonosama | 2010-04-24 05:58 | Comments(8)
あの夏の子供たち -2-
Le père de mes enfants

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映画が上映されるまでのプロセスって、とてもとても大変です。
かのリヒャルト・ヴァーグナーは「オペラとは総合芸術である」といったそうですが、
いやいや、映画もまた偉大なる総合芸術です。

ストーリー
携帯電話で話しながら、パリの街を颯爽と歩くグレゴワール。
彼は製作会社ムーン・フィルムを経営する映画プロデューサーです。
ウィークデイは殺人的な仕事を精力的にこなし、
週末はパリ近郊の別荘で家族とともに過ごすのが長年の習慣。

その日もいつものように家族が待つ別荘へ車を走らせていると、
スピード違反でつかまってしまいました。
別荘への到着は大幅に遅れましたが、まだ幼い次女のヴァランティーヌと
末娘のビリーが大好きなパパに飛びつきます。
思春期の長女クレマンスだけは毎週末、家族と田舎で過ごすことに不満顔。
どこにでもいる平和で仲の良い家族です。
しかし、その夜グレゴワールは妻シルヴィアに仕事上の心配を打ち明けます。

月曜、グレゴワールは現像所への負債が100万ユーロに上っていることを
告げられました。
さらにスウェーデンで撮影中の映画のスタッフが、賃銀未払いを抗議して
ストを決行するという連絡も。
グレゴワールは小切手を2枚切り、賃金を分割払いにすることでその場をおさめます。
そんな状況にありながらも新人監督が持ち込んだ脚本に魅せられ、
映画化を検討するグレゴワール。

さまざまな不安を抱えながら、一家はイタリア旅行にでかけます。
旅先でも携帯電話を離さない夫に妻は怒りを隠しません。
しかし、電話は、先日分割払いで振り出した小切手が
2枚とも一度に現金化されてしまったというものでした。

パリへ戻ったグレゴワールを待ち受けていたのは絶望的な状況。

弱音を吐く夫をシルヴィアは必死に励ますのですが、
彼女の留守中、グレゴワールは自らの命を絶ってしまいました―――

彼の死後に残されたのは多額の借金と未完成の映画。
シルヴィアは追い詰められた夫を一人にしたことを悔いつつも、
友人であり映画プロデューサーであるセルジュはじめ、スタッフ達と相談し、
夫の会社ムーン・フィルムを守り抜くことを決意したのでした。
ですが…


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映画は総合芸術であると冒頭で言いました。

が、しかし、
映画も芸術もこの世界にある限り、経済活動から自由であることはできません。
経済性よりも良質の映画を送りだすことを重視するインディ系映画の製作会社が
不況の波にまず呑み込まれていくのはなんともいたましい事実です。

この映画のモデルになったアンベール・バルザンも、個性的な監督たちの作品をプロデュースしたインディペンデント映画のシンボルのような存在でした。
彼の死から2年後、セザール賞で作品賞を受賞した「レディ・チャタレイ」のパスカル・フェラン監督はそのスピーチの中で、テレビ局をバックにした大作や娯楽映画と、助成金を利用した新人監督の低予算映画の狭間で、意外にもシリアスなドラマを撮る中堅監督たちの映画制作が困難であることを訴えています。
 
観客の視線はついつい経営者としてのグレゴワールの死に向かってしまいます。
だって、あんなに颯爽と歩いていたグレゴワールが、
ぼろぎれのように舗道の上で死んでしまうんですから。

でも、
映画の中で、まだパパの死を理解できない小さな娘たちが、
両親の友人であるセルジュに向かって
「私たちこれからどうなってしまうの?」と訊ねるちょっと緊張するシーンがあります。
するとセルジュは答えるんですね。
「君たちはね、若くて美しい女の人に成長するのさ」
思わず、ため息が出ました。

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こんな優しくて素敵な言葉をかけてくれるおじさんが近くにいるのです。
パパの死は確かに悲しいことだけど、
家族に残されたものは悲しみや借金だけではありません。
パリが停電した夜、普段は見えない夜空の星がはっきりと見えたように
グレゴワールのいなくなった今こそ、家族の中には彼が残していった
希望そして映画が見えてくるのです。

ラストに流れるドリス・デイの「ケセラセラ」が教えてくれました。
♪whatever will be, will be♪人生はなるようになっていくものです。



最後になりましたが、長女クレマンスを演じたアリス・ド・ランクザンは
グレゴワールを演じたルイ=ド・ランクザンとは実生活でも親子なのだそうです。
彼女、すばらしく存在感のある女優でした。今後が楽しみな新星です。

映画って、こんなに多くの人の手を通して公開に至っているのだということをあらためて感じました。
というわけで、今回はスタッフ紹介をいつもより丁寧にしましたのでご覧ください。

あの夏の子供たち
監督、脚本/ミア・ハンセン=ラブ、撮影/パスカル・オフレー、録音/ヴァンサン・ヴァトゥ、オリヴィエ・ゴワナール、美術/マチュー・ムニュ、スクリプト/クレモンティーヌ・シェーファー、編集/マリオン・モニエ、キャスティング/エルザ・ファラオン、衣装/べトサベ・ドレフュス、ヘアメイク/ラファエル・ティエルスラン、製作監督/エレーヌ・バスティド、製作/レ・フィルム・ペレアス(フィリップ・マルタン、ダヴィッド・ティオン)、共同製作/27フィルム・プロダクション(オリヴィエ・ダミアン)、アルテ・フランス・シネマ、参加/文化・コミュニケーション省(国立映画センター)、カナル・プリュス、シネシネマ、フィルムフェルデルングスアンシュタルト
出演
キアラ・カゼッリ/シルヴィア・カンヴェル、ルイ=ド・ランクザン/グレゴワール・カンヴェル、アリス・ド・ランクザン/クレマンス・カンヴェル、エリック・エルモスニーノ/セルジュ、サンドリーヌ・デュマ/ヴァレリー、ドミニク・フロ/ベレニス
初夏、恵比寿ガーデンシネマ他全国順次ロードショー
2009年、110分、フランス、フランス語、提供・配給/クレストインターナショナル
http://www.anonatsu.jp/


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by mtonosama | 2010-04-21 05:44 | 映画 | Comments(6)
あの夏の子供たち -1-
Le père de mes enfants

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皆さまは映画をご覧になるとき、何を基準になさいますか?

1.好きな俳優が出ているから?
2.タイトルが気にいったから?
3.ひいきにしている監督の作品だから?
4.プロデューサーが気になるから?
5.「殿様の試写室」が紹介していたから?
(な~~んて、ちょっと言ってみたかっただけだからお気になさらないように)

4.も5.もあまり無いですよね。
しかし、本作「あの夏の子供たち」は普段あまり意識に上ることのない
映画プロデューサーが主人公。
配給会社、現像所など、いままでスクリーン上でお目にかかることのなかった
映画を影で支える人たちも登場しています。

この映画では、映画の舞台裏、家族の愛、不況に翻弄される経営者が描かれ、
実在のプロデューサーがモデルになっています。
「なぜ、そこまで…」と思わせるほど
映画が好きで好きでたまらないプロデューサーのグレゴワール。
そんな彼を支えるスタッフと家族
他にも
芸術至上主義の監督、生活の悩みを訴える俳優、新作を持ち込む若い脚本家、
経営者が代替わりした現像所、製作された映画を劇場で上映するまで
公開劇場への営業、プリントの量産、宣伝活動を行う配給業者―-

これまでの映画ではあまり観たことのない映画界の舞台裏
それもインディ系(独立系)映画の舞台裏がこれでもかとばかりに登場します。
監督も「今までになかったんじゃないかしら」と言っているそうです。

本作が二作目となる監督・脚本を担当したのはミア・ハンセン=ラブ。
17歳で女優デビューした彼女は、その後22歳から25歳まで映画批評活動、
同時期に短編映画を監督。
さらに、監督、脚本家への道に進んだ根っからの映画人間です。

彼女の脚本家としての処女作「すべてが許される」(‘07仏)に着目したのが
アンベール・バルザンというプロデューサーでした。
そして、彼こそがこの映画のモデルであり、
彼と監督との出会いが
この映画を生み出すきっかけになったのです。

バルザンとの出会いは2004年初頭のこと。
しかし、彼は翌年2月に自殺してしまいました。
彼は死んでしまいましたが、「すべてが許される」は別の製作会社が引き継いで完成。
本作もその会社が製作しています。

プロデューサーというのは映画のために資金集めをし
映画完成に向けて、さまざまな条件を整える縁の下の力持ち。
本作の主人公も、こよなく映画を愛するインディ系映画のプロデューサーです。
監督や俳優の要求に耳を傾け、金策し、
良い脚本をみつけたら、どれほど金銭的に追い詰められていても、
なんとか世に送り出そうとする芸術の支援者であり、
同時に、製作会社という零細企業の経営者でもあります。

この映画の主人公だった映画プロデューサーのグレゴワールは
金策に行き詰まり、自殺してしまいます。
こんなご時世ですから、それは結構身につまされますが、
実は、映画はそれで終わらないし、それがテーマでもありません。

主人公だった――と過去形にしているのは、
プロデューサーの自殺が映画の終わりを意味しているのではないからです。
映画前半の主人公はプロデューサーである父親グレゴワールですが、
後半の主人公は彼の妻、そして娘たち。

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監督も言っています。
「私は彼(アンベール・バルザン)への感謝の念から本作を書いたわけではないの。―-中略――
失敗や挫折に押し潰されてしまったとしても、(映画には)それを超えるものが残っています。
自殺は事実ではあるけれど、たった一つの真実ではないわ」

《亡きプロデューサーにオマージュをささげるためにこの映画を作りました…》
という映画ではどうもなさそうです。

さて、いったい、どんなストーリーなのでしょうか?
続きは後編で。乞御期待!

To be continued.

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あの夏の子供たち
監督、脚本/ミア・ハンセン=ラブ、撮影/パスカル・オフレー、録音/ヴァンサン・ヴァトゥ、オリヴィエ・ゴワナール、美術/マチュー・ムニュ、スクリプト/クレモンティーヌ・シェーファー、編集/マリオン・モニエ、キャスティング/エルザ・ファラオン、衣装/べトサベ・ドレフュス、ヘアメイク/ラファエル・ティエルスラン、製作監督/エレーヌ・バスティド、製作/レ・フィルム・ペレアス(フィリップ・マルタン、ダヴィッド・ティオン)、共同製作/27フィルム・プロダクション(オリヴィエ・ダミアン)、アルテ・フランス・シネマ、参加/文化・コミュニケーション省(国立映画センター)、カナル・プリュス、シネシネマ、フィルムフェルデルングスアンシュタルト
出演
キアラ・カゼッリ/シルヴィア・カンヴェル、ルイ=ド・ランクザン/グレゴワール・カンヴェル、アリス・ド・ランクザン/クレマンス・カンヴェル、エリック・エルモスニーノ/セルジュ、サンドリーヌ・デュマ/ヴァレリー、ドミニク・フロ/ベレニス
初夏、恵比寿ガーデンシネマ他全国順次ロードショー
2009年、110分、フランス、フランス語、提供・配給/クレストインターナショナル
http://www.anonatsu.jp/

by mtonosama | 2010-04-18 06:19 | Comments(6)
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                    (C)2010「ねこタクシー」製作委員会

前回、猫は演技ができない、と言いました。

撮影者と仲良しになった猫は本当に良い味を出しますが
映画のように大勢の人が撮影に関わり、その中には必ずしも猫と仲良しでない人もいたりすると
なかなか難しいものがあるような気がします。

でも、3万分の1の出生率の奇跡猫みーすけさん
てれ隠しか、舌を出してはいますが、一貫して良い味出してます。
スター猫としての演技なのか、それとも、素なのか――
皆さまにぜひお確かめいただきたいところです。

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ストーリー
社内売上ランキングが毎回最下位のタクシー運転手・間瀬垣勤(カンニング竹山)は元教師。教師をしている妻(鶴田真由)と高校生の娘(山下リオ)との3人暮らしです。
家族からは浮いているし、稼ぎは悪いし、客あしらいも下手、所長からは毎日責められる――
なんか八方ふさがりのさえないオヤジです。

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間瀬垣さん、いつものように誰もいない公園でお弁当を食べているとなにか気配を感じます。
視線を向けたその先にいたのは一匹の三毛猫。
首輪には「御子神」と書いた木札がついています。
その御子神さん、なんと間瀬垣のタクシーに乗り込んでくるほど
図々しい、いえ、悠然としています。

ある日、間瀬垣さんは子猫を抱いた老婆(室井滋)・通称ねこババァに乗車賃をネコババされ、
彼女の暮らす猫屋敷に乗り込んできました。
さすが、猫屋敷。あちらに1匹、こちらに2匹、猫だらけです。
すると、奥にあの御子神さんが!
「御子神さんは気が向くと、この家で休んでいくのだよ」とねこババァ。

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御子神さんから離れようとしない子猫のコムギの事情や他の猫たちの身の上話を
ねこババァから聞いている内に、乗車賃を支払ってもらうどころか
間瀬垣さん、御子神さんとコムギをひきとり、家に連れ帰ることになってしまいました。

「2匹を飼い、できたら御子神さんをタクシーに乗せて営業したいんだけど――」
おずおずと切り出しますが、案の定、奥さんは大反対。
ところが意外なことに、娘の瑠璃が
「お父さんが自分のやりたいことを言ってるの、初めて聞いた!」
と応援してくれたのでした。

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仕事先でも
間瀬垣と同じタクシーを交替で乗る成績トップの沼尻さん(甲本雅裕)も
御子神さんのことを見て見ぬふりをしてくれるというし
御子神さんのおかげで乗客と会話も楽しめるようになるし
間瀬垣の人生もなんだか調子良くなってきました。ところが…

いやあ、御子神さん、抜群の存在感です。
でもね、ごめんなさい。他の猫たちはやっぱりマイペース。
「やりたくないんだよぉ」と身を強張らせている様子がどうしても見えてきちゃうんですよね。
う~~ん、だから猫の映画は難しい。
だけど、演技しないのが猫の良さ。
言うことをきかない猫たちにすったもんだしながら、映画を撮ったであろうスタッフたちを想像して
「ねこタクシー」観るのもひとつの楽しみ方。
猫好きならわかりますよね。

ねこタクシーがホントにあったら楽しいだろうな、と思う殿です。


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ねこタクシー
監督/亀井 亨、脚本/永森祐二、イケタニマサオ、原作/永森祐二(「ねこタクシー」竹書房刊)、製作総指揮/吉田尚剛、配給協力/中目黒製作所、企画・配給/AMGエンタテインメント
出演
みーすけ/御子神さん、カンニング竹山/間瀬垣 勤、鶴田真由/間瀬垣真亜子、山下リオ/間瀬垣瑠璃、芦名 星/丹羽仁美、室井滋/松本スミエ、内藤剛志/宗形誠二、高橋長英/真泉平、甲本雅裕/沼尻 崇、塚本高史/タクシーの客、水木一朗/炎 悟
6月12日(土)よりシネマスクエアとうきゅう他、全国ロードショー
2010、日本、106分
http://nekotaku.info/

by mtonosama | 2010-04-15 05:45 | Comments(8)
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                   (C)2010「ねこタクシー」製作委員会


犬も猫も好きな殿です。
でも、犬にはグチャグチャと頭をなでまわしていやがられたり
猫からも尻尾をしごいたり、耳たぶ(?)をひねくったりして怒られます。

数年前、20歳まで生きた愛犬チヌが逝ってしまってからは
つらいので動物は何も飼っていません。
時々、自宅のウッドデッキをどこかの猫やらタヌキ(先日3匹の仔ダヌキが走っていきました!)やらが通っていくので、それで良しとしています。

さて、今回、当試写室で上映するのは「ねこタクシー」。
まるで熊谷守一画伯の描く猫のように典型的な三毛猫が今回の主人公です。

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主役の御子神(みこがみ)さんを演じるのはみーすけさん。オスの8歳です。

「あ、ちょっと待って!」

おや、お声がかかりましたね。
よびとめたのは、オスの三毛猫について、でしょう?
そうなんですねぇ。オスの三毛猫って、とっても珍しいんです。

三毛猫
一般的に白・茶色・黒の3色で短毛の日本猫。白・茶色・こげ茶のものを「キジ三毛」、縞模様との混合のものを「縞三毛」と特に分けて呼ぶこともある。 福を招くとされるネコの置物招き猫の代表的な色合いでもある。
日本では珍しくないネコだが、そのほとんど全てがメスで、オスが滅多にいない事から、伴性遺伝の具体例として、遺伝学の教科書などで取り上げられる代表的な生物である。
欧米では比較的珍しいとされ、トーティ・アンド・ホワイトと呼ばれる。英仏風にトライカラーあるいはトリコロール(Tricolor)と呼ばれることがある。アメリカで開発された尻尾が短いジャパニーズボブテイルの代表的な毛色でもあり、西欧や北米にあっては、そのジャパニーズボブテイルが『ミケ』(Mi-ke)の愛称で珍重されている。
(Wikipediaより)

オスの出生率は3万分の1といわれるほど珍しい存在。
昔はオスの三毛猫が生まれると新聞に載ることもあったとか。
福を呼ぶとも、船に乗せればその船は沈まない、などともいわれ
漁師さんたちに大切にされたとひいおばあちゃんから聞いたことがあります。

この貴重な三毛猫みーすけは、なかなかのスター猫でして
「ALWAYS 三丁目の夕日」(‘05)や
「龍馬伝」(‘10)や
いろんなテレビCMにも登場する売れっ子です。

そんな珍しい猫が登場する「ねこタクシー」。
監督は亀井亨さん。
以前ご紹介した「幼獣マメシバ」http://mtonosama.exblog.jp/11202242の
監督さんです。
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                  ©2009『幼獣マメシバ』製作委員会

一郎くん↑かわいかったですね。


古来、犬の登場する映画やテレビ番組は多いのですが
猫となると、パッと思いつくところで
「ハリーとトント」(‘74 ポール・マザースキー監督)
「ティファニーで朝食を」(’61ブレイク・エドワーズ監督)
ムツゴロウさんの「子猫物語」(‘86畑正憲監督)なんてのもありました。
あ、あとエミール・クストリッツァ監督の「黒猫白猫」という映画も。
彼の映画には脇役としても猫がよく登場しますよね。
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こんなことを言うとなんですが、猫って演技ができないと思うんです。
犬に比べて猫の映画やテレビドラマが少ないのはそのせいではないでしょうか。

猫ブログが好きでよく見ますが、飼い猫はもちろん野良猫の場合も
良い写真は撮影者と猫たちとのとっても良い関係が透けて見えます。
猫ブログに登場する猫たちはみな素で良い味出しているんですねぇ。

とはいえ、これは猫ブログのお話ではなく「ねこタクシー」。
さてさて、一体どんなお話なんでしょう。

続く

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ねこタクシー
監督/亀井 亨、脚本/永森祐二、イケタニマサオ、原作/永森祐二(「ねこタクシー」竹書房刊、製作総指揮/吉田尚剛、配給協力/中目黒製作所、企画・配給/AMGエンタテインメント
出演
みーすけ/御子神さん、カンニング竹山/間瀬垣 勤、鶴田真由/間瀬垣真亜子、山下リオ/間瀬垣瑠璃、芦名 星/丹羽仁美、室井滋/松本スミエ、内藤剛志/宗形誠二、高橋長英/真泉平、甲本雅裕/沼尻 崇、塚本高史/タクシーの客、水木一朗/炎 悟
6月12日(土)よりシネマスクエアとうきゅう他、全国ロードショー
2010、日本、106分
http://nekotaku.info/

by mtonosama | 2010-04-12 05:47 | Comments(12)
     闇の列車、光の旅 -2-
                     Sin Nombre

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             c2008 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

東南アジアは貧しくとも、雨や湿気に包まれて生い茂る木々や植物の
もたらす恵みによって本質的には豊かな地域である

というようなことを作家・写真家の藤原新也がなにかに書いていました。

その伝でいけば、強烈な陽光と石と砂の大地は、そこに暮らす人々にとって
不毛と貧しさ以外のなにものでもないのでしょうか。
加えて、内戦や社会制度の不備などで生きるすべを失い
法の網からこぼれおちた人々は生きるために
〈豊かな北〉をめざすしかないのでしょうか。

ストーリー
サイラはホンジュラスに祖母と暮らしています。
ある日、父がアメリカから強制送還されて戻ってきました。
父の望みはサイラを連れて、再度アメリカに渡り
向こうに残してきた家族と一緒に暮らすこと。
サイラにとっては気乗りのしない提案でしたが
このままホンジュラスにとどまっていても、先行きは見えないまま。
彼女は父と叔父の3人でグアテマラ、メキシコを経由して
アメリカ・ニュージャージーをめざす長く危険な旅に出ることを決意しました。

カスペルはメキシコ・チアパス州でギャングの一員として暮らしています。
彼にはリーダーのリルマゴに知られたくない秘密がありました。
それは恋人のマルタ。
カスペルにとって、彼女との逢瀬だけが生きがいでした。
しかし、そんな甘い日々はあっという間に終わりを告げます。
リルマゴに犯されそうになったマルタは激しく抵抗した挙句
そのはずみで岩に頭をぶつけて死んでしまったのです。
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一方、チアパス州までようやく辿りついたサイラたち
彼女たちと同じようにアメリカを目指す移民たちでひしめきあう貨物列車の屋根に
乗り込みました。
鈴なりの移民を乗せて列車が動き始めたとき、人々の間から悲鳴が!

リルマゴとカスぺル、そして、カスぺルが仲間に引き入れた12歳のスマイリー
3人のギャングが、移民たちからなけなしの金品を奪うため
列車の屋根に上がってきたのです。

そして、リルマゴはサイラをみつけ、銃をつきつけて強姦しようと―――
それを見たカスぺルの脳裏には愛するマルタの姿が。
リルマゴから同じようなことをされ、死んでいったマルタの姿が浮かびます。
瞬間、リルマゴは手にしていた鉈(なた)をリルマゴに振り下ろしていました。

命より重い組織との絆――
越えてはいけない線を踏み越えてしまったカスぺル
この瞬間からカスぺルは組織を敵に回し、追われる身に。

スマイリーを列車から降ろし、カスペルは一人列車の屋根の上で膝を抱えます。
組織を裏切った彼はこのまま旅を続け、逃げていくしかありません。
ところが、サイラはそんな彼に幼く淡い恋心をいだくように。
そして…

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貧困からの逃亡と組織からの逃亡
2つの逃亡のドラマが狭い列車の屋根の上で展開されます。
邦題の「闇の列車、光の旅」にあるように光への旅になるのかどうか。
カスペルとサイラの旅はそれぞれの軌跡を描きます。

移民たちが命をかけて得ようとするもの
ギャングの少年たちが血の結束を固める理由。

それは安心して食べていけるだけの最低限の生活であり、家族です。

貧しさゆえに親に捨てられた子どもたちが
濃密な血の掟で成り立つギャング集団を家族の代わりとする。
そこで人を殺すことを覚え、貧しい人からも金品を奪う。
そして親や兄弟を殺された子はさらなる貧困に陥っていく――

カスペルの悲しい目がお気楽な殿の頭をガツンとぶちのめしてくれました。


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闇の列車、光の旅
脚本・監督/キャリー・ジョージ・フクナガ、撮影/アドリアーノ・ゴールドマン、音楽/マーセロ・サーヴォス、製作総指揮/ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、パブロ・クルス
出演
パウリーナ・ガイタン/サイラ、エドガー・フロレス/カスペル(ウィリー)、クリスティアン・フェレール/スマイリー、テノック・ウェルタ・メヒア/リルマゴ、ディアナ・マルシア/マルタ
6月上旬 TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー
2009年、アメリカ・メキシコ、スぺイン語、96分、配給・宣伝/日活、
http://www.yami-hikari.com/

by mtonosama | 2010-04-09 06:13 | Comments(8)
      闇の列車、光の旅 -1-
                    Sin Nombre

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c2008 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

昔の話をしてごめんなさい。

タイトルも内容もすべて忘れてしまったのですが
あるワンシーンだけが今も鮮明に蘇ってくる映画があります。

町の広場とおぼしき場所に井戸がひとつ。
容赦ない陽光にさらされ、すべてが砂埃にまみれ、乾ききっています。
〈これが貧しさだ!〉とつきつけてくるシーンでした。
なにも覚えていないのに、その貧しい場所がメキシコだったということだけが
強く印象に残っています。

そのシーンが殿の頭に〈メキシコ=貧困〉を刷り込んでしまっていましたが
この映画によって、さらに貧しい中南米の現実を知りました。
「闇の列車、光の旅」というタイトルから
心躍るロードムービーを期待した自分の不明を恥じています。

原題の“Sin Nombre”はスペイン語。
“without a name”(名前がない) あるいは”nameless”(名無し) という意味、だそうです。

メキシコからの移民問題は「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」
(http://mtonosama.exblog.jp/11735083)でも、扱われていましたが
「闇の列車、光の旅」はメキシコよりもさらに南のホンジュラスから
グアテマラ、メキシコを経て、列車の屋根に乗って、アメリカを目指す移民たちと
どうしようもない貧困の中でギャングに身を落とし、短い命を散らせていく少年たちの物語です。

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映画はフィクションですが
監督自ら、映画の主人公たちと同じように、27時間列車の屋根に乗って
旅をしたときの体験が、作中の列車でのできごとの下敷きになっています。

監督・脚本はキャリー・ジョージ・フクナガ。
日系3世の父とスウェーデン系アメリカ人の母を両親に持つ1977年生まれ
32歳の若手新人監督です。
2005年フクナガ監督が脚本・監督をつとめたショートフィルム
Victoria para Chino”がサンダンス映画祭で上映され
その後、世界中で24個以上もの賞を受けました。
それがきっかけとなって生まれたのが本作「闇の列車、光の旅」です。

”Victoria para Chino”
テキサス州にあるヴィクトリアという町で
トラックに乗せられた移民たちが放置され、その中で窒息死していた事件を
題材にした作品です。

フクナガ監督はメキシコでこの作品を撮るための取材をしたとき
中南米の移民たちのことを知ったのだそうです。

移民といえばメキシコからアメリカへ国境を越えてくる人たちが思い浮かびます。
「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」でもそうでした。
しかし、ホンジュラス人、グアテマラ人、ニカラグア人たちは
まずメキシコを目指して北上し、そこから更にアメリカへ向かいます。
通過する国が多ければ多いほど、苦難も多いわけです。

フクナガ監督はメキシコの刑務所で不法に移民を運ぶギャングに会い
グアテマラ・メキシコ国境で、川を渡ろうと筏に乗る人たちを見ました。
事故でけがをした移民たちのシェルターで多くの人にも会いました。
シェルターにいる人たちは少しでも良い生活を求めて北を目指したものの
途中で負傷し、国境を越えられなかった人たちです。

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「闇の列車、光の旅」はフィクションです。
しかし、若いフクナガ監督がすべて自分の目と耳と足で体験したできごとが
元になっています。だから、訴えてくるものはとても強いのです。

製作総指揮に「モーターサイクルダイアリーズ」で青年ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルがあたっているところも、興味をそそります(すいません。彼のファンなもので)。

ゲバラは中南米全体の革命をめざし、志半ばに斃れましたが
この映画に描かれている現実を知ったら、怒髪天を衝かぬばかりに怒り狂うことでしょう。

ゲバラの髪はいつも逆立っているって?
それは、きっと、人々のおかれた理不尽な現状を憂え
いつも怒っていたからに違いありませぬ。

というわけで、ストーリーは次回に。乞ご期待!

to be continued.

闇の列車、光の旅
脚本・監督/キャリー・ジョージ・フクナガ、撮影/アドリアーノ・ゴールドマン、音楽/マーセロ・サーヴォス、製作総指揮/ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、パブロ・クルス
出演
パウリーナ・ガイタン/サイラ、エドガー・フロレス/カスペル(ウィリー)、クリスティアン・フェレール/スマイリー、テノック・ウェルタ・メヒア/リルマゴ、ディアナ・マルシア/マルタ
6月上旬 TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー
2009年、アメリカ・メキシコ、スぺイン語、96分、配給・宣伝/日活
http://www.yami-hikari.com/


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by mtonosama | 2010-04-06 06:37 | Comments(8)
ザ・コ―ヴ -2-
THE COVE

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(c)OCEANIC PRESERVATION SOCIETY. ALL RIGHTS RESERVED.

日本では、映画の舞台となった和歌山県太地町のほか
静岡県伊豆半島の富戸でも、イルカの追い込み漁が行われています。

伊東市出身の知人は「スーパーでイルカ肉を売っていた」と言いますし
〈イルカ料理〉で検索すると、出てくる、出てくる!
「イルカ味噌煮」「イルカステーキ」「イルカたれ焼き」などなど。
本当にイルカを食べていました。
ところ変われば、品変わる――です。

イルカを食べることを知らない地域に育った人や、欧米人にとっては
かなりビックリですが、食文化として定着している地域があるのは事実でした。

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「ザ・コーヴ」で太地町の漁師さんを悪役に仕立てたスタッフたちは
太地町の町民や漁師たちの意見にも耳を傾けたのでしょうか。

ストーリー
60年代「わんぱくフリッパー」の調教師として活躍し
今は世界中でイルカ解放運動の活動をするリック・オバリー。
彼は日本で行われているイルカ漁をやめさせたいという強い思いで
和歌山県太地町へやってきた。
太地は400年にわたる捕鯨の歴史を持つ町である。

オバリーの情熱に導かれるように
イルカ保護に共感するスタッフが続々と太地に到着。
太地町に着いた監督のルイ・シホヨスは
オバリーがマスクや帽子で顔を隠していることに不審をいだく。
だが、シホヨス監督自身、太地町内で常に数台の車に尾行されているのを知り
オバリーの変装の理由を理解する。
ある日、彼らは太地町の海岸で行われているショー用のイルカの捕獲を目撃。
それは海岸に行けば、誰でも見物できるのだが
実はその入り江のさらに奥、鎖や鉄条網で守られた入り江で
町の人も知らない秘密のイルカ漁が行われていたのだ…

よくあるB級映画の筋書きのようですね。

映画はさらにIWC(International Whaling Commission/国際捕鯨委員会)で
調査捕鯨の正当性を語る日本側の発言を批判し
ロンドンで開かれた反捕鯨集会で、クジラの悲しい鳴き声を大音量で流し
捕鯨がいかに野蛮であるかと口々に訴える人々の様子を映し出しています。
そこでは興奮した市民が日の丸を燃やしています。
日本でも、銀座を歩く人々にマイクを向けて
「え、イルカを食べるの?」「知らなかったわぁ」
などというコメントも取っています。

でも、長年クジラ漁、イルカ漁に従事してきた太地の漁師さんたちに
マイクが向けられることはありませんでした。
後でモザイクをいれたという漁師たちの映像は
「写真撮るな!」とか「帰れ!」とすごんでいるものばかり。

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リック・オバリーさんやスタッフは
「なぜイルカ漁をするのか?」と冷静な取材をしたのでしょうか。
クジラ漁400年の歴史を持つ太地の漁師にとって
アメリカ人から「金を出すからイルカを殺すな」といきなり言われて
「はい、お説の通りです。やめましょう」
と身をひくわけにはいかないでしょう。
こういう取材って地元になじみ、じっくりと話を聞きつつ
了解点を見出していくというのが基本のはず。

この映画
「自分たちこそ、正義の味方だ」
「賢いイルカを残虐な方法で殺すことは許せない」
という《上から目線》でイルカ漁関係者に接しているようで、すごく気になります。
ハリウッド映画お得意の〈イルカを愛する文明人〉と〈イルカを殺す野蛮人〉という
勧善懲悪ものになっています。
エンタテインメントってことでしょうが、一方的に悪者にされるのってイヤな感じです。

リック・オバリーさんは
「私たちは人道的な視点からのみイルカを食べることに反対しているのではない」
と言います。
「食物連鎖の頂点に位置するイルカの体内には水銀が蓄積している――
このこともイルカ漁に反対する理由です」。
なるほど、これは今日的な問題です。
たしかに、沿岸に生息するイルカの体内に蓄積された水銀量は400年前とは
比べ物にならないほど高濃度にのぼっているでしょう。

ご指摘いただき、ありがとうございます。
リックさんにご心配いただくまでもなく
私たちは水俣病のもたらした悲惨な状況を知っております。
国民の健康のため、厚生労働省や水産庁にしっかり調べていただきましょう。

と、ブツブツ言いながら、映画はラストへ向かいます。
入り江全体が殺されたイルカの血で真っ赤に染まっていくシーンは
心優しい我々には見るに堪えないものであると同時に
彼らの撮りたかったのはまさにこれだったのだ、と納得できます。

これを撮りたいがために、ハリウッド映画技術の粋をこらした隠し撮りをしたわけですね。

しかし、ここまで日本を悪者にして描かれると
「攘夷ぜよ」と叫びたくなってしまいます(オイ、オイ)。
シー・シェパードがしつこく日本の調査捕鯨船を追い回す理由も
「ザ・コーヴ」を見て、よーくわかりました。

イルカは人間より大きな脳を持っていて賢いから殺してはいけないと
いうのがこの映画の底流としてありますが
ならば、他の頭の悪い動物(人間も含め)なら殺していいのですかねぇ。
イルカにせよ、クジラにせよ、牛にせよ、豚にせよ、マグロにせよ
人間は彼らの死によって、生かしていただいているんですけど。

「ザ・コーヴ」のスタッフの皆さんに提案です。
この次は、皆さんを生かしてくれるあらゆる生き物
牛や豚、羊、鶏の屠殺から解体、そして食するまでを映画にしてみませんか?

屠殺現場の隠し撮り、すごいシーンになるでしょうね。

ザ・コーヴ
監督/ルイ・シホヨス、プロデューサー/フィッシャー・スティーヴンス、ポーラ・デュプレ・ペスマン、エグゼクティブプロデューサー/ジム・クラーク、編集/ジェフリー・リッチマン、キャクホン/マーク・モンロー、共同プロデューサー/オリビア・アネマン、音楽/ジェイ・ラルフ
出演
ルイ・シホヨス、リック・オバリー、サイモン・ハッチンズ、チャールズ・ハンブルトン、ジョー・チズルム、マンディ=レイ・クルークシャンク、カーク・クラック
6月26日(土)、シアターN渋谷他全国ロードショー
2009年、アメリカ映画、91分、提供/メダリオンメディア、配給/アンプラグド
http://thecove-2010.com/


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by mtonosama | 2010-04-03 05:05 | 映画 | Comments(10)