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殿様の試写室

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タグ:アレクサンドル・ソクーロフ ( 4 ) タグの人気記事

ファウスト -2-
Faust

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(C) 2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St.Petersburg,Filmforderung, Russland Alle Rechte sind geschutzt

さて、ソクーロフ監督が見せてくれる「ファウスト」。
オープニングは密教曼荼羅図を想わせるような山々の俯瞰映像。
思わず息を呑むシーンです。
これを観て、もしかして自分はとてつもなく壮大な作品に関わろうとしているのだと
襟を正す気分になったことを告白したいと思います。

これまでも数多くの芸術家をとりこにしてきた「ファウスト」ですから、
ソクーロフ監督としても半端なことはできません。

ソクーロフ的解釈もなかなかです。
だから、あの有名なメフィストフェレスだって出てきません。
代わりに出てきたのが高利貸マウリツィウス。
監督によれば、メフィストフェレスはスピリチュアルな存在であるべき、というのです。

映画では、神秘的でロマンティックなキャラクターを作りたくなかったということで、
高利貸マウリツィウスが登場しました。
なるほど、高利貸ならロマンティックではありません。
それどころか、きわめてシンプルでわかりやすい悪キャラです。

ゲーテは「ファウスト」を劇として書き、
実際に、自分で舞台装置のための下絵まで描いていたそうです。
なるほど、ヴィジュアル展開を予想した作品だったわけですね。
映像美の名手ソクーロフが監督した「ファウスト」。
いったいどのような展開でありましょうか。


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ストーリー
森に囲まれたドイツの小さな街。
ファウスト博士は一体の屍を解剖して《魂》の存在を探しています。
「人体のどこにも《魂》をみつけることができない」と嘆くファウストに
助手のワーグナーは「魂の正体を知っているのは神と悪魔だけです」とつぶやきました。
「神など存在しない」と怒るファウストに
「悪魔なら金のあるところにいます。広場の近くに住んでいる男が悪魔と噂されています」
と告げる助手。

研究費もなくなり、まともな食事にもありつけないファウスト博士は
診療所で医師として働く父を訪ねますが、すげなく追い返されてしまいます。
町をさまよい歩くファウストの足はいつしか悪魔と噂される高利貸の家へ。
マウリツィウス・ミュラーと名乗るその高利貸の家には、神父までもが出入りしています。
室内にうず高く積まれた担保物件。
指輪を担保に金を借りようとしたファウストに、マウリツィウスは
「価値を持つのは、時と芸術。金はお貸しできませんが、別の形でならお力になりましょう」と提案。
借金を断られたと思ったファウストは高利貸の家から憤然と立ち去ります。

ファウストが帰宅すると、助手のワーグナーが毒の小瓶を持って近づいてきました。
実は、ファウストは毒を入手するよう彼に命じていたのです。
そこへ現れたマウリツィウス。
彼はその毒を、あっという間に飲み干してしまいました。
平然としているマウリツィウス!
その力に興味を持ったファウストはマウリツィウスに誘われるまま、再び町へ出かけます。

彼らがやってきたのは女たちが集まる洗濯場。
その中にファウストは清楚な若い女性マルガレーテをみつけ、心を奪われます。

次に彼が連れていかれたのは地下酒場。
そこでは兵士たちが陽気に飲んで歌っていました。
マウリツィウスは兵士の1人にわざと酒をかけて騒ぎを起こします。
大騒動の中でファウストは誤ってその兵士を刺し殺してしまいました。

酒場から逃げ出したファウスト。
罪の意識に苛まれ、死んだ兵士の家族に償いをしたいと
マウリツィウスに頼んだ時にわかったのは驚くべき事実でした。
ファウストが殺した兵士は洗濯場の美女マルガレーテの兄だったのです。

葬儀の日、ファウストはマルガレーテを慰めながら、清らかで純真な彼女と語らいます。
充実したひとときを過ごす二人の前に現れたマルガレーテの母。
彼女は、見知らぬ男と二人きりでいるマルガレーテを激しく叱責します。
暗い気持ちを抱えてマルガレーテは教会へ。
母への想いを懺悔するマルガレーテの前へファウストがやってきます。
ファウストの優しい言葉に心を開くマルガレーテ。

恋の予感に心躍らせ、帰宅したマルガレーテを待っていたのは
兄を殺したのはファウストであるという驚くべき事実でした……

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ゲーテの原作では「ファウスト・悲劇」と題されたこの戯曲。
プロローグ、第1部、第2部に及ぶ膨大な量の作品ですが、
それを2時間20分の映画にまとめあげるだけでも大変な作業でありましたでしょう。

天才ゲーテが死の間際まで60年近くもかけて完成させた「ファウスト」。
20代で書き始めたものを83歳までひきずり続ける、いえ、こだわり続ける、
いえ、推敲し続ける――
どう表現すべきか、150歳と歳は経ていても天才とは程遠いとのにはわかりません。

ゲーテの抱き続けた執念というか、情熱というか、生きることそのものというか、
すごすぎます。

これを映画化するとき、なにを前面に出すか、といったら、
思想でも、文学性でもなく、映像そのものでしょう。

ラストの圧倒的な映像とともに、
マウリツィウスの鼻をあかしたファウストのあがきに感銘を覚えたとのであります。

この映画、観るときの気持ちに応じていろいろな色合いを見せてくれるような気がします。





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ファウスト
監督・脚本/アレクサンドル・ソクーロフ、台本/ユーリー・アラボフ、共同脚本/マリーナ・コレノワ、撮影/ブリュノ・デルボネル、美術/エレーナ・ジューコワ、製作・音楽/アンドレイ・シグレ
出演
ヨハネス・ツァイラー/ハインリヒ・ファウスト、アントン・アダシンスキー/マウリツィウス・ミュラー(高利貸)、イゾルダ・ディシャウク/マルガレーテ、ゲオルク・フリードリヒ/ワーグナー、ハンナ・シグラ/高利貸の妻、アンチェ・レーヴァルト/マルガレーテの母、フロリアン・ブリュックナー/バレンティン、シグルズール・スクラソン/ファウストの父
6月2日(土)シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー
2011年、ロシア、ドイツ語、140分、日本語字幕/吉川美奈子、配給/セテラ・インターナショナル、http://www.cetera.co.jp/faust/

by Mtonosama | 2012-06-06 06:18 | 映画 | Comments(6)
ファウスト -1-
Faust

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(C) 2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St.Petersburg,Filmforderung, Russland Alle Rechte sind geschutzt

「ファウスト」といえば誰でも知っています。
誰が書いたかも皆さまよくご存知ですよね。
でも、実際にゲーテのこの名作を読んだことのある方というとどれだけいらっしゃるでしょう?
あ、既にお読みになっていらっしゃる方はごめんなさい。

かつてドイツに実在したといわれる魔術師ファウストの伝説をもとに、
ゲーテが20代半ばから死の直前まで60年近くの年月をかけて完成させた「ファウスト」。
これまでに映画化された本数は両手の指では足りず、演劇や音楽に名を残し、
手塚治虫の漫画にもなっている超有名作品です。
だから、本当は読んでいないかもしれないのに、知ってるつもりになっている方も
相当な数にのぼるのではないでしょうか。
とのも読んだような気もするし、そうでないような気もするし、
150歳の今となっては定かとは申せません。


ファウスト
15世紀から16世紀頃のドイツに実在したと言われるドクトル・ファウストゥスの伝説を下敷きにして、ゲーテがほぼその一生をかけて完成した大作である。このファウスト博士は、錬金術や占星術を使う黒魔術師であるという噂に包まれ、悪魔と契約して最後には魂を奪われ体を四散されたという奇怪な伝説、風聞がささやかれていた。ゲーテは子供の頃、旅回り一座の人形劇「ファウスト博士」を観たといい、若い頃からこの伝承に並々ならぬ興味を抱いていた。こうした様々なファウスト伝説に取材し、彼を主人公とする長大な戯曲を仕立て上げた。(Wikipediaより)


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登場人物はファウストとメフィストフェレスと聖少女グレートヒェン。
悪魔メフィストフェレスと契約して魂を売り渡す代わりに、
あらゆる快楽を手に入れた「ファウスト伝説」は中世以来ヨーロッパ中に伝わっています。
幼いゲーテは人形劇で観て興奮し、おねしょを漏らしたかもしれませんね。

実際に、悪魔と契約を交わしたかどうかはともかく「魔術師ファウスト博士」は実在した人物。
古文書には「かつてあったなかで最も完璧な錬金術師」と書かれているそうです。
ゲーテならずとも魔術師とか錬金術師と悪魔との取引などと聞けば、
怖いものみたさやら、人間の底知れぬ欲望の深さやらで、なんとも気になります。

シューマンが「ゲーテのファウストからの情景」を作曲したのも、
リストが「ファウスト交響曲」を作ったのも、
トーマス・マンが長編小説「ファウスト博士」を書いたのも、
なんとなくわかるような気がします。

悪魔との取引はおそらく良いことではないのでしょうが、
その取引によって自らの才能を開花させ、社会に名をなし、素晴らしい結婚をし、可愛くて優秀な子どもを持ち、大金持ちになり、
そして、そして――
健康な体を持ち、行きたいときに旅行へ行き、美味しいものを食べ、
それでも、体型を維持できて――
う~ん、段々、願いが卑俗になってきたな。

大した願いではないにしても、これが全部かなった後の反動もちょっと怖い。
うまいこと悪魔の鼻をあかせればいいのだけど。
と、まあ、結構悩ましい訳であります。

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さて、この名作を今回映画化したのは「ボヴァリー夫人」(‘89)
http://mtonosama.exblog.jp/11831877/
「太陽」(‘05)
「チェチェンへ アレクサンドラの旅」(‘07)
http://mtonosama.exblog.jp/9958217/
のアレクサンドル・ソクーロフ監督。
ソ連崩壊までは、その作品が一般公開されることのなかった監督ですが、
1987年以降は、コンスタントに新作を発表。
世界でも高い評価を受けています。
本作「ファウスト」では、第68回ヴェネチア国際映画祭のグランプリを受賞しました。

「太陽」でも、「ボヴァリー夫人」でも、その映像と解釈にはビックリしましたが、
今回はいったいどんな作品を見せてくれるのでしょうか。

乞うご期待でございます。



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ファウスト
監督・脚本/アレクサンドル・ソクーロフ、台本/ユーリー・アラボフ、共同脚本/マリーナ・コレノワ、撮影/ブリュノ・デルボネル、美術/エレーナ・ジューコワ、製作・音楽/アンドレイ・シグレ
出演
ヨハネス・ツァイラー/ハインリヒ・ファウスト、アントン・アダシンスキー/マウリツィウス・ミュラー(高利貸)、イゾルダ・ディシャウク/マルガレーテ、ゲオルク・フリードリヒ/ワーグナー、ハンナ・シグラ/高利貸の妻、アンチェ・レーヴァルト/マルガレーテの母、フロリアン・ブリュックナー/バレンティン、シグルズール・スクラソン/ファウストの父
6月2日(土)シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー
2011年、ロシア、ドイツ語、140分、日本語字幕/吉川美奈子、配給/セテラ・インターナショナル、http://www.cetera.co.jp/faust/

by Mtonosama | 2012-06-03 06:18 | 映画 | Comments(4)
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ボヴァリー夫人
Spasi I Sokhrani
Madame Bovaryもしくは Save and Protect

思春期。
中学3年から高校1年くらい?
人によってはもう少し早かったり、あるいはもう少し遅かったり
数年の開きはあるのでしょう。
ちょっと大人の世界をのぞきたくなる年頃
その頃、みなさんはどんな本をお読みになりましたか?

殿は、枕の下に隠して「チャタレイ夫人の恋人」を読みました。
裁判になるほど、大したことは書いてないな、などと思ったりしながら(笑い)。

「ボヴァリー夫人」も1850年代の発表当初はフランスで風俗紊乱の罪に問われたり
日本でも、1916年の刊行時には発禁処分となっています(1920年に解除)。
とはいえ、「ボヴァリー夫人」、近代史に初めてリアリズムをもたらした金字塔的な作品。
なかなか、であります。

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映画「ボヴァリー夫人」は1989年、今から20年前の作品です。
監督はアレクサンドル・ソクーロフ。

     4年前、終戦直後の昭和天皇を描いた「太陽」で話題になった監督です。
     当試写室でも‘08年12月に彼の作品「チェチェンへ アレクサンドラの旅」を
     上映しています。

ちょっと硬派な印象のあるソクーロフがなにゆえ「ボヴァリー夫人」を?

監督いわく
「中学生の頃、読んだ文学の中で『ボヴァリー夫人』が最も明快な印象を与えた一冊だったのです」
中学2年だったそうですよ。

さて、おませなソクーロフ少年を感動させた小説「ボヴァリー夫人」のあらすじです。

田舎医者シャルル・ボヴァリーは最初の妻を病で亡くし、美しいエマと再婚。
エマは農家の娘だが、修道院で寄宿生活を送った夢見がちな女性。
夫シャルルは凡庸な男ながら、エマを心から愛している。
田舎での単調な結婚生活。
エマは小説を読み、ピアノを弾き、絵を描き、鬱々とした気分を晴らしている。
そんなある日、夫シャルルが侯爵の病を治し
夫婦そろって城に招待される。
今まで小説でしか知らなかった上流社会の生活を目の当たりにして
あらためて夫との夢のない生活に幻滅するエマ。
そんな中で出会ったのが公証人の書記を勤めるレオン青年だった。
両者ともに恋心を抱くが、想いを告白できないまま、レオンは去る。
エマは彼が去った心のすきまを埋めるように
プレイボーイの貴族ロドルフと恋のアバンチュール。
だが、気まぐれなロドルフとの仲は続かず、彼女は体調を崩す。
妻とロドルフとの関係にまったく気付かないシャルルは
妻のため、いろいろな薬を取り寄せるが…
観劇をして気分転換するよう勧められたエマ。
街に出かけると、思いがけずレオンと再会。
二人は再び燃え上がる恋の炎に、今度こそ身を任せるのだった。
その後もエマはレオンに会うため、夫を偽って、毎週のように街へ。
レオンとの逢瀬のため、大金をつぎこむエマ。
高利貸しから借金を重ね、ついに裁判所から差し押さえ命令が。
エマは、レオンに助けを求めるが、彼は去っていく。
そして、絶望したエマは…

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1989年には167分だった作品をソクーロフ監督が128分に編集した本作。
フローベール没後130周年を記念して上映されます。
文芸映画というジャンルに入るわけですが
これを観たとき、ちょっと、いえ、かなり驚きました。

     文芸映画に期待する映像ってありますよね。
     まして19世紀フランスの小説なのですから
     美しい田園風景や
     素晴らしいインテリア、それやこれやに
     「なんて素敵なの」
     とうっとりしながら鑑賞するのが、これまでの文芸映画ではないですか。

     ところが、ボヴァリー家の窓の外に広がるのは埃っぽい山や汚い納屋。
     家畜や肥やしの匂いが漂ってきそうな風景です。
     実際、ハエが唸りを上げ、エマが大切にしている品々にたかっていたりします。
     このハエの羽音が映画を通してずうっと聞こえてきました。

当時30代のソクーロフ監督はどうしてここまで原作の色を変えたのでしょう。
エマが抱える絶望感をきわだたせたかったのでしょうか。
19世紀のフランスの田舎に生きる知的な女性の抱える朦朧とした不満を強調したのでしょうか。

     この映画が完成した1989年はソ連崩壊の年です。
     ソクーロフ監督もまたソビエト政府当局から受け入れられず、
     その作品は公開禁止処分を受けていました。
     不倫という背徳も含め、あらゆる表現が禁止されていた監督にとっては
     エマの暮らす田舎町は監督の置かれた状況に他ならなかったのかもしれません。

観終わった後、甘い文芸映画を期待したおのが不明に恥じ入った次第です。
思春期真っ最中の生徒さんや思秋期にあるご婦人殿方にとっては
ちょっと刺激が強すぎるかもしれません。
原作を読んでみたくなる映画です。

ボヴァリー夫人
監督/アレクサンドル・ソクーロフ、原作/「ボヴァリー夫人」(ギュスターヴ・フローベール著)
脚本ユーリィ・アラボフ
キャスト
セシル・ゼルヴダキ、R.ヴァーブ、アレクサンドル・チェレドニク、B.ロガヴォイ
1989年=2009年/ソ連=ロシア/カラー、配給/パンドラ
http://www.pan-dora.co.jp/bovary/
10月3日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー

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by mtonosama | 2009-08-30 06:23 | Comments(8)
チェチェンへ
アレクサンドラの旅
Alexandra

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列車に乗り、戦車に乗り、80歳の祖母が孫息子に会うため、戦場を訪れました。
ゆっくりと戦場を歩む祖母。
「日常」発、「非日常」着という列車。悪夢の中の不愉快なワープのような。
しかし、これがロシアとチェチェンとの間で今も続いている戦争なのです。

終戦から人間宣言に至る昭和天皇を主人公にした「太陽」(‘05)。
公開時、映画館の自主規制だの、あるいは、勇気ある上映だの、
作品以外でも大きな話題を呼んだソクーロフ監督。
その彼が、報道管制下にあるチェチェン共和国の首都グロズヌイのロシア軍駐屯地とその周辺で
25日間にわたって撮影しました。
それが「チェチェンへ アレクサンドラの旅」です。
「太陽」では、爆撃中のB29はひらひらと遊泳する魚のように、
地上の焦熱地獄は花火のように、幻想的に描かれた東京大空襲ですが
この映画に戦闘の場面は出てきません。
ただ、濛々と舞う一面の砂埃だけが、この地が非日常の世界であることを思わせます。

チェチェン紛争は現在報道管制下におかれていることもあって、ニュースで知ることができません。
第一、チェチェンはどこにあるのでしょう。
チェチェン、チェチェン…
あ、ありました。
コーカサス(カフカス)地方にありました。
コーカサスは黒海とカスピ海の間にあって、北はロシア、南はイラン、トルコと
国境を接する44万平方キロの地域です。
世界の三大長寿国として有名ですが、古くから東西南北の交通を結ぶ要衝の地。
そのため、地球上で最も多様な民族と言語が複雑に混じり合い、
宗教もキリスト教とイスラム教とが混在しています。
チェチェン共和国はそのコーカサスの北東に位置し、宗教的にはスンニ派イスラム教徒の多い国です。

大カフカス戦争を経て1861年ロシアに併合されたチェチェンは、
ソ連時代に入るとチェチェン・イングーシ自治共和国の一部となります。
チェチェン人とイングーシ人は第二次世界大戦中にはスターリンによって
対独協力者の烙印を押され、カザフスタンや中央アジアに強制移住させられました。
ソ連崩壊の後、1991年に独立を宣言しますが、これを許さないロシアが出兵し、
第1次チェチェン紛争(1994~96)が始まります。
チェチェン側は多くの犠牲者を出しましたが、反撃に成功し
1996年、チェチェンとロシアの間にハサブユルト和約が締結されました。
これによってチェチェンは独立を確立したのですが、
この和約がまっとうされる前に第2次チェチェン紛争が勃発。
今に至っています。


ストーリー
衣服が汗で肌にまつわりつくような熱気がたちこめ、砂埃の舞うロシア軍駐屯地を堂々とした老女が歩いています。
80歳のアレクサンドラです。将校としてこの駐屯地に勤務する27歳の孫息子デニスに会いに来たのです。
彼女が、幼顔の残る兵士たちに話しかけ、ピロシキや煙草を与える姿は祖母と孫の平和な日常を思わせます。
しかし、ここは戦場です。
アレクサンドラは駐屯地を出て、市場に出かけました。
そこにはロシア兵士たちにものを売ることによって生計を立てるチェチェン人がいます。
ここにも存在する日常と非日常。
兵士たちにとっては戦場でも、市民にとっては生活の場なのです。
暑さと疲労で体調を崩したアレクサンドラはロシア語の上手なチェチェン人の女性マリカに介抱してもらいました。
彼女が連れていかれたのはマリカの自宅。そこは砲撃で壊れたアパートでした。
マリカは言います。「男たちは敵になるかもしれない。でも、私たちは初めから姉妹よ」。
帰途、送ってくれた隣人の息子イリヤスは「メッカとサンクト・ペテルブルグに行きたい」とつぶやき、アレクサンドラに「解放してほしい」と訴えるのでした。
翌朝、アレクサンドラはデニスに起こされます。急な任務につかねばならないというのです。
彼はかぶっていた軍帽を祖母に渡し、戦場へ出ていきました。
立ち尽くすアレクサンドラ。
彼女もこの地を去る日が来ました…

アレクサンドラを演じたのは、チェロ奏者ロストロポーヴィチ(‘07死去)の妻で、
ロシアオペラ界の名ソプラノ歌手ガリーナ・ビシネフスカヤ。
映画の冒頭、かすかに聞こえてくる歌は1940年代に録音された彼女自身の歌声です。

ビジネフスカヤ演じるアレクサンドラは決して饒舌ではありませんし、大きな振りもありません。
しかし、彼女の深い眼窩の奥のまなざしは哲学的で、いつ終わるともしれない愚行への憤りを表しています。
彼女の老人特有のゆるやかな動きは、駐屯地の兵士たちの若さをきわだたせると同時に、
祖母が象徴する安らぎ、平和を感じさせます。同時に、深い苦悩も。
そう、能のような映画と言ったらいいでしょうか。

ソクーロフ監督は言います。
「この映画は普遍的なものについて語っている。
主人公は、イラクに駐留する孫に会いに来たアメリカ人女性や、
アフガニスタンに派兵された孫を訪ねるイギリス人女性であってもおかしくない。
チェチェン共和国が平和のために払った大きな代償を私は知っている。
多発する犯罪や人の心を堕落させる戦争についても知っている。
お互いの犠牲者を心から弔わなくてはいけない。
この映画は政治的な作品ではなくフィクションだ。
映画の中で私たちは人々を結び合わせる方法を探り、それを見つけ出すだろう」


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監督・脚本/アレクサンドル・ソクーロフ
キャスト
ガリーナ・ビシネフスカヤ、ワンリー・シェフツォフ、ライーサ・ギチャエワ、エフゲニー・トゥカチュク
ユーロスペースにて公開中。ほか全国順次公開予定
http://www.chechen.jp/

by mtonosama | 2008-12-22 06:34 | 映画 | Comments(6)