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殿様の試写室

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この自由な世界で
it’s a free world…


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(c) Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A.

唐突ですが、1930年代に起こったスペイン市民戦争に夢中になっていた時期が ありました。
R・キャパの撮影した「崩れ落ちる兵士」の写真で有名な内戦です。
そのスペイン市民戦争を描いた「大地と自由」(‘95)を観たのが
ケン・ローチ監督との出会いでした。
「この人すごい。これは『カタロニア讃歌』だ。スペインの内乱をまんま映画にしてくれた!」
鼻の穴をふくらませて感動したのを思い出します。

一昨年はアイルランドの独立を描いた「麦の穂をゆらす風」で
パルムドール大賞を受賞した監督ですが、
やはりこの人の真骨頂は現代社会の片隅に生きる
名もないおじさん、おばさん、おねえさん、おにいさんを
切り取って見せてくれるところにあるような気がします。
 
「この自由な世界で」の主人公はアンジーという33歳のシングルマザー。
11歳の一人息子を両親に預け、ルームメイトのローズと暮らしています。
移民相手の職業紹介所の仕事もバリバリこなしているのだけれど、
上司のセクハラまがいの嫌がらせをかわしたら、その翌日にクビ。
頭にきたアンジーはローズを誘い、派遣業を立ち上げます。

    学歴なんかないけど、仕事はできるんだから。
    来年は中学に上がる息子だって、いつまでも両親に預けておくわけにはいかないし。
    お金だってもっと稼げるはず。
    私を使い捨てにしたやつらも見返してやらなくちゃ…

舞台はロンドン。
職を求め、あるいは命の安全を求め、世界各国から移民たちが集まってくる都市です。
EU拡大以降、東欧の新規加盟国に労働市場を開放したイギリスには
ポーランド、ウクライナなど東欧圏の移民労働者が多く、
この映画でもポーランド人の青年がアンジーに思いを寄せ、
通訳として彼女の仕事を手伝う役柄として登場しています。

ここで問題となるのが不法移民労働者の場合。
職業紹介所にとって不法移民の就労はタブー。

反体制的な本を出版したことで逮捕され、
イギリスに亡命申請したものの認められず、ロンドンに隠れ住むイラン人の元出版業者
就労ビザのないウクライナ人

彼らが働くこと、彼らを働かせること自体が犯罪です。
そこはもうマフィアが関わる危険区域。焦ったアンジーが足を踏み入れ、
映画の中でも息詰まる展開を見せるのが不法移民の問題なのです。

アンジーは自分の幸福のためにあくどいことを平気でやってしまう今時の娘ですが、
彼女を見守る父親は古き良き時代の労働者。
団結や倫理観、今ではダサいといわれる価値観の中で生きてきた人です。
父娘そして新旧世代の価値観のずれは仕方ありません。
労働をとりまく環境も変わりすぎてしまいました。

父親はただ娘を見守り続けるだけですが、
この父親が本当に良い味を出していました。
無茶をする娘を心配しながらも、余計なことは言わず、
毅然と見守る姿には無骨ながらも深い愛情があふれています。

この父親を演じたのはなんと役者未経験の元港湾労働者コリン・コフリン。
筋の通った父親は演技ではなく、彼の人生そのものなのでしょうか。
移民問題は今日的なテーマですが、
その背後には不器用な父親を通してケン・ローチの視線が感じ取れます。

手探りでがむしゃらに生きる若い人たちへの励ましとも導きともとれる視線。
やはり、この人は名匠の名に値する監督です。

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監督/ケン・ローチ、脚本/ポール・ラヴァティ
出演
アンジー/キルストン・ウェアリング、ローズ/ジュリエット・エリス、父親ジェフ/コリン・コフリン
8月、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー
www.kono-jiyu.com

by Mtonosama | 2008-07-08 16:14 | 映画 | Comments(8)