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チェチェンへ
アレクサンドラの旅
Alexandra

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列車に乗り、戦車に乗り、80歳の祖母が孫息子に会うため、戦場を訪れました。
ゆっくりと戦場を歩む祖母。
「日常」発、「非日常」着という列車。悪夢の中の不愉快なワープのような。
しかし、これがロシアとチェチェンとの間で今も続いている戦争なのです。

終戦から人間宣言に至る昭和天皇を主人公にした「太陽」(‘05)。
公開時、映画館の自主規制だの、あるいは、勇気ある上映だの、
作品以外でも大きな話題を呼んだソクーロフ監督。
その彼が、報道管制下にあるチェチェン共和国の首都グロズヌイのロシア軍駐屯地とその周辺で
25日間にわたって撮影しました。
それが「チェチェンへ アレクサンドラの旅」です。
「太陽」では、爆撃中のB29はひらひらと遊泳する魚のように、
地上の焦熱地獄は花火のように、幻想的に描かれた東京大空襲ですが
この映画に戦闘の場面は出てきません。
ただ、濛々と舞う一面の砂埃だけが、この地が非日常の世界であることを思わせます。

チェチェン紛争は現在報道管制下におかれていることもあって、ニュースで知ることができません。
第一、チェチェンはどこにあるのでしょう。
チェチェン、チェチェン…
あ、ありました。
コーカサス(カフカス)地方にありました。
コーカサスは黒海とカスピ海の間にあって、北はロシア、南はイラン、トルコと
国境を接する44万平方キロの地域です。
世界の三大長寿国として有名ですが、古くから東西南北の交通を結ぶ要衝の地。
そのため、地球上で最も多様な民族と言語が複雑に混じり合い、
宗教もキリスト教とイスラム教とが混在しています。
チェチェン共和国はそのコーカサスの北東に位置し、宗教的にはスンニ派イスラム教徒の多い国です。

大カフカス戦争を経て1861年ロシアに併合されたチェチェンは、
ソ連時代に入るとチェチェン・イングーシ自治共和国の一部となります。
チェチェン人とイングーシ人は第二次世界大戦中にはスターリンによって
対独協力者の烙印を押され、カザフスタンや中央アジアに強制移住させられました。
ソ連崩壊の後、1991年に独立を宣言しますが、これを許さないロシアが出兵し、
第1次チェチェン紛争(1994~96)が始まります。
チェチェン側は多くの犠牲者を出しましたが、反撃に成功し
1996年、チェチェンとロシアの間にハサブユルト和約が締結されました。
これによってチェチェンは独立を確立したのですが、
この和約がまっとうされる前に第2次チェチェン紛争が勃発。
今に至っています。


ストーリー
衣服が汗で肌にまつわりつくような熱気がたちこめ、砂埃の舞うロシア軍駐屯地を堂々とした老女が歩いています。
80歳のアレクサンドラです。将校としてこの駐屯地に勤務する27歳の孫息子デニスに会いに来たのです。
彼女が、幼顔の残る兵士たちに話しかけ、ピロシキや煙草を与える姿は祖母と孫の平和な日常を思わせます。
しかし、ここは戦場です。
アレクサンドラは駐屯地を出て、市場に出かけました。
そこにはロシア兵士たちにものを売ることによって生計を立てるチェチェン人がいます。
ここにも存在する日常と非日常。
兵士たちにとっては戦場でも、市民にとっては生活の場なのです。
暑さと疲労で体調を崩したアレクサンドラはロシア語の上手なチェチェン人の女性マリカに介抱してもらいました。
彼女が連れていかれたのはマリカの自宅。そこは砲撃で壊れたアパートでした。
マリカは言います。「男たちは敵になるかもしれない。でも、私たちは初めから姉妹よ」。
帰途、送ってくれた隣人の息子イリヤスは「メッカとサンクト・ペテルブルグに行きたい」とつぶやき、アレクサンドラに「解放してほしい」と訴えるのでした。
翌朝、アレクサンドラはデニスに起こされます。急な任務につかねばならないというのです。
彼はかぶっていた軍帽を祖母に渡し、戦場へ出ていきました。
立ち尽くすアレクサンドラ。
彼女もこの地を去る日が来ました…

アレクサンドラを演じたのは、チェロ奏者ロストロポーヴィチ(‘07死去)の妻で、
ロシアオペラ界の名ソプラノ歌手ガリーナ・ビシネフスカヤ。
映画の冒頭、かすかに聞こえてくる歌は1940年代に録音された彼女自身の歌声です。

ビジネフスカヤ演じるアレクサンドラは決して饒舌ではありませんし、大きな振りもありません。
しかし、彼女の深い眼窩の奥のまなざしは哲学的で、いつ終わるともしれない愚行への憤りを表しています。
彼女の老人特有のゆるやかな動きは、駐屯地の兵士たちの若さをきわだたせると同時に、
祖母が象徴する安らぎ、平和を感じさせます。同時に、深い苦悩も。
そう、能のような映画と言ったらいいでしょうか。

ソクーロフ監督は言います。
「この映画は普遍的なものについて語っている。
主人公は、イラクに駐留する孫に会いに来たアメリカ人女性や、
アフガニスタンに派兵された孫を訪ねるイギリス人女性であってもおかしくない。
チェチェン共和国が平和のために払った大きな代償を私は知っている。
多発する犯罪や人の心を堕落させる戦争についても知っている。
お互いの犠牲者を心から弔わなくてはいけない。
この映画は政治的な作品ではなくフィクションだ。
映画の中で私たちは人々を結び合わせる方法を探り、それを見つけ出すだろう」


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監督・脚本/アレクサンドル・ソクーロフ
キャスト
ガリーナ・ビシネフスカヤ、ワンリー・シェフツォフ、ライーサ・ギチャエワ、エフゲニー・トゥカチュク
ユーロスペースにて公開中。ほか全国順次公開予定
http://www.chechen.jp/

by mtonosama | 2008-12-22 06:34 | 映画 | Comments(6)