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殿様の試写室

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タグ:ハニ・アブ・アサド監督 ( 4 ) タグの人気記事


歌声にのった少年
-2-
Ya Tayr El Tayer

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(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film


子どもたちはどんな国でもどんな時代でも
楽しく生きることができます。

本作の主人公ムハマッドも
紛争下で暮らす大人たちの困窮や労苦は別にしても
優しい両親に守られ、
利発な姉や友人たちと遊ぶ幸せな日々を過ごしていました。

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ストーリー
ムハンマドは歌うことが大好き。
姉のヌールと友達のアハマドやウマルとバンドを組み、
寄せ集めのおんぼろ楽器を奏で、路上で歌っていた。
2005年、紛争の続くここガザ地区でも
姉のヌールはカイロのオペラハウスに出演するという大きな夢を描いていた。

そのためにはまずは楽器を手に入れようと闇商人を訪ね、なけなしのお金を渡す。
だが、何週間経っても梨のつぶて。
4人は再び男たちを訪ねるが追い返される。
その夜、ムハンマドは勇気をだして一人で男たちを訪ねるが、袋叩きに。

ようやく中古の本物の楽器を入手した4人は結婚式で演奏することになった。
ムハンマドはもっと素晴らしいステージで演奏すべき、と反対するヌールだったが、
人前で演奏する楽しさを知る。
ところが演奏中にヌールが倒れてしまう。
検査の結果、腎不全と診断される。
腎臓移植の費用1万5千ドルを用意できない両親。
ヌールは透析治療を受けることになる。
バンド活動は終わるしかなかったが、
ムハンマドはヌールを助けるために歌い続ける。

音楽教室の先生に励まされ、レッスンを受けながら作ったCDを売り、
結婚式で歌い、ヌールの手術費用を貯めるムハンマド。
そんな姉と弟の楽しみはTVのオーディション番組を観ること。
ヌールはムハンマドに出演するよう勧めるのだった。
だが、ヌールの病は重く、家族の見守る中、その短い一生を終えた。

それから7年。
ムハンマドはタクシー運転手として働いていた。
イスラエルからの攻撃を受け、ガザは瓦礫の山だった。
抜け出したくてもここを出ることはできない。
ムハンマドはスカイプでオーディションに出演することを思いつくが、
発電機の故障で失敗。
やけを起こすムハンマド。
だが、ヌールと同じ病気で入院していたアマルに励まされたムハンマドは……

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ガザといえばいつも虐げられた人々という言葉がついてまわります。
2007年に始まったイスラエルによる封鎖のために
働きに出ることも、学校に行くこともできず、
ガザで生産されたものを外国に輸出することもできません。
失業率は43%、若年層はさらにひどく60%です。

ハニ・アブ・アサド監督の前作『オマールの壁』は
まさにそんな負の現実を描いた映画でした。

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だけど過酷な現実だけではパレスチナの人々もつらいし、観客もつらい。
ムハンマド・アッサーフはまさに人々の希望を乗せて飛び立ったロケットでした。
死に物狂いで国境を越え、エジプトに向かい、
全パレスチナ人の祈りにも似た想いがのしかかる中、
スターの座を勝ち取ったのです。

いつか自分たちにもそんな日が来る――
なんかホッとすることができた映画でした。





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歌声にのった少年
監督・脚本/ハニ・アブ・アサド
出演
タウフィーク・バルホーム、ナーディーン・ラパキ、ムハンマド・アッサーフ
9月24日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
2015年、パレスチナ、アラビア語、98分、提供/ニューセレクト、配給/アルバトロス・フィルム、http://utagoe-shonen.com/

by Mtonosama | 2016-09-16 13:23 | 映画 | Comments(10)

歌声にのった少年
-1-
Ya Tayr El Tayer

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(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film


歌でも絵でもサッカーでも勉強でも
誰でも何かひとつは得意なものを持っています。

「小学生の時の得意科目が今の仕事になっていると思う」
と義弟が言っていました。

そういえばそうかなあという気がします。
仕事でなくとも趣味になっているということもあるし。

でも、好きなことができるって幸せです。

本作『歌声にのった少年』はガザに住んでいた少年の実話。
監督はハニ・アブ・アサド。
代表作は『パラダイス・ナウ』や
『オマールの壁』
http://mtonosama.exblog.jp/25120005/
http://mtonosama.exblog.jp/25127939/

『パラダイス・ナウ』は自爆テロがテーマでしたし、
『オマールの壁』では
分離壁によって囲まれたパレスチナの今を生きる若者たちの
悲惨な現実を描き出しています。

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それがなんと今回は
亡き姉との約束を果たすために
紛争の地ガザ地区から脱出し、
世界的な歌手になるという夢を叶えた少年のお話です。

前二作とは違って絶望的な気分にならずにすむお話です。

ガザの厳しい現実は相変わらずだけれど
パレスチナにだって美しい話や感動的な物語があっていいはず。
歌の大好きな少年が夢をかなえる映画があってもいいんじゃないですか?
ということで
あのシビアな作品をつくっていたハニ・アブ・アサド監督が
ムハンマド・アッサーフという実在の歌手をモデルに
明るい希望を与えてくれる映画を作りました。

ムハンマド・アッサーフ

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1989年生まれ。
アメリカの人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」の
中東版「アラブ・アイドル」で
2013年に優勝したガザ地区出身のポップスター。
祖国への想いを歌い、≪ガザの希望≫≪ガザのロケット≫と呼ばれ、
パレスチナだけでなくアラブのポップスターとなった。
現在はヨーロッパでコンサートツアーを行うなど多忙を極める。
また国際パレスチナ難民救済事業機関青年大使を務めるなど平和活動を続ける。

実物もなかなかのイケメンですね。

ガザ地区は縦40km、横10kmの細長い土地。
西は地中海、北と東はイスラエルに面し、
南の10kmはエジプトに接しています。
地中海性の穏やかな気候で農業も盛んで、
古くは貿易の要衝として栄えた港でした。

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しかし、2007年にイスラエル政府が始めた封鎖は、ガザ180万人の人々を
「世界最大の野外監獄」と呼ばれるような状態に追いやっています。
イスラエル側との境界線にはフェンスや高さ8mもの壁が建てられ、
海もまた6海里(約11km)以上、沖に出ることは禁じられています。
陸海ともに境界線に近づけばイスラエル軍によって威嚇射撃を浴びせられます。
繰り返される紛争のため、
住民はこの地から出ることも許されず、
住む場所も食べものも、命だって保証されない毎日を送っています。

そんなガザで育った歌好きな少年ムハンマドの夢は
「スター歌手になって世界を変える」―――

さあ、歌の大好きな少年は大人になって歌手になることができるのでしょうか。
続きは次回までお待ちくださいね。
乞うご期待でございますよ。



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歌声にのった少年
監督・脚本/ハニ・アブ・アサド
出演
タウフィーク・バルホーム、ナーディーン・ラパキ、ムハンマド・アッサーフ
9月24日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
2015年、パレスチナ、アラビア語、98分、提供/ニューセレクト、配給/アルバトロス・フィルム、http://utagoe-shonen.com/
by Mtonosama | 2016-09-13 06:28 | 映画 | Comments(8)

オマールの壁
-2-
OMAR


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走るオマール。
その前にそそり立つ高いコンクリート塀。
塀にはロープが下がっていて、オマールはそれを伝い
器用によじ登っていきます。

ストーリー
ヨルダン川西岸地区。
長大な壁が町を分断するパレスチナ人居住区に
オマールは両親、妹弟と共に暮らしている。
彼はイスラエル兵の監視の隙を見ては、
壁をよじ登り、向こう側に住む親友タレクとアムジャドに会いにいく。
3人は“自由の戦士”を目指し、武装組織から銃を入手し、
イスラエル軍への襲撃作戦を練っていた。
オマールはタレクの妹ナディアを恋しており、彼女との結婚を夢見ていた。

ある日、イスラエル兵の気まぐれで不当な暴行を受け、侮辱されたオマール。
彼はタレクとアムジャドに作戦の決行を持ちかける。
タレクが司令塔、オマールが車の運転、アムジャドが狙撃担当だ。
検問所のイスラエル兵に向けてアムジャドが発砲、一人の兵士が倒れる。
数日後、オマールがイスラエル秘密警察に拘束された。
どれだけひどい拷問を受けても黙秘し続けるオマール。
証拠がなければ3人とも無罪の筈だった。

だが、オマールは罠にはまった。
パレスチナ人の囚人を装い、オマールに接近した男に
「絶対に自白などしない」と言ってしまったのだ。
こっそり録音されたこの発言をイスラエル軍事裁判所は自白とみなし、
懲役90年の刑が科せられる。
更にイスラエル秘密警察のラミ捜査官から
恋人ナディアにも秘密警察の手が伸びると暗示されたオマール。
ラミから提示された、タレクの逮捕に協力せよ、という
交換条件をのんだふりをして釈放される。
何者かから狙撃犯はタレクだという偽情報が伝わっていたのだ・・・

釈放されたオマールはタレクとアムジャドに会い、
イスラエル秘密警察を襲撃する計画を立てる。
作戦は失敗、4人の味方も犠牲になる。
再び拘束されるオマール。
その時、彼はラミの言葉からアムジャドがスパイだったことに気づく。

一方、「裏切者はオマールだ」というアムジャドの嘘を信じたナディアは、
オマールを避けるように……

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アムジャドのスパイ行為をなじるオマールが聞いた言葉は耳を疑うものでした。
秘密警察に「アムジャドがナディアを妊娠させたことを暴露する」と脅された・・・というのです。
(あ、蛇足ですが、イスラムの戒律では婚前交渉はタブーなのです)

えーっ!
オマールは最愛の人ナディアを失ったのみならず、
アムジャドには二重に裏切られていたことになるではありませんか。

そして、観客が目にする思いもかけないラスト。

アラブ世界の映画は政治的に深刻なテーマを抱えていたり、
メッセージ性の高い作品が多かったりします。
観客もまた眉間に皺を寄せて、腕を組みながら鑑賞する
という態度をとらざるを得ません。

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ところが、本作のスリリングな展開といったらどうでしょう。
もちろんパレスチナ人の置かれた状況は悲惨ではありますが、
まず観客に迫ってくるのは
自分がオマールの立場に置かれたら
どうする?どうなる?ということ。
この盛り上げ方、観客の心の掴み方。

そして、あのラストです。
ハニ・アブ・アサドという人、
ドラマツルギーの天才じゃないでしょうか。

監督はこんなことを言っています。

「映画を作る際、リアリティは信憑性ほどには重要ではない
この作品に関してはどのシーンも実態に即していて、現実味がある
偶然が重なるドラマチックな架空の話のように見えるかもしれないが、
実際にドラマ的な効果を狙って物語から逸れるのは一度だけだ
それ以外はすべて今日の占領パレスチナの実態を反映していると思う」


作劇術じゃないって!?
としたらパレスチナが抱える現実ってどれだけ?
だから、素人の俳優4人がこれだけの演技ができるのでしょうか。
彼ら4人は本当に
パレスチナのオマールであり、ナディアであり、タレクであり、アムジャドなんですね。





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オマールの壁
監督・脚本・製作/ハニ・アブ・アサド、撮影/エハブ・アッサル、編集/マーティン・ブリンクラー、イヤス・サルマン
出演
アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニほか
4月16日(土)より角川シネマ新宿、渋谷アップリンク他ロードショー
2013年、パレスチナ、97分、アラビア語・ヘブライ語、カラー、配給/アップリンク、http://www.uplink.co.jp/omar/

by Mtonosama | 2016-04-13 06:15 | 映画 | Comments(10)

オマールの壁
-1-
OMAR

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「国境に壁をつくればいい」
と或る国の共和党大統領候補が言いました。
確か還暦はとっくに超えていると思いますが、
思い浮かんだ言葉を頭脳によって編集することも濾過することもなく
ペラペラと軽々しく話すおっさんです。

『オマールの壁』
ハニ・アブ・アサド監督がこの映画の舞台に選んだのは
壁によって分断されてしまったパレスチナの町。

イスラエルが今も造り続ける壁は
パレスチナとイスラエルの境界に沿って
建てられている訳ではありません。

壁はパレスチナ人の領地に侵入し、
パレスチナ人の財産を破壊し、
パレスチナ人の土地を接収し、
パレスチナ人の移動を制限する形で建てられています。

あのトランプ候補ですら壁は国境につくると言っているのに、です。

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2005年の『パラダイス・ナウ』で自爆攻撃に向う若者たちを描き
ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞、
アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたハニ・アブ・アサド監督。

本作では、分離壁によって囲まれたパレスチナの今を生きる若者たちを描き出し
カンヌ国際映画祭を始め、多くの映画祭で賞讃され、
再び、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされました。
スタッフはすべてパレスチナ人、
撮影もすべてパレスチナ、
100%パレスチナの資本によって製作されています。

あ、そうでした。
字幕監修には重信メイさんが当たっています。

当試写室でも上映した『革命の子どもたち』
http://mtonosama.exblog.jp/22421331 http://mtonosama.exblog.jp/22442952/
に登場した日本赤軍・重信房子の一人娘で
ジャーナリストとして活動している方です。

すみません。話が少し逸れました。

ハニ・アブ・アサド監督
1961年イスラエル・ナザレに生まれる。
イスラエルのパスポートを持つパレスチナ人。
19歳でオランダに移住し航空力学を学び、
卒業後、数年間飛行機のエンジニアとして働く。
1992年、初めての短編『Paper House』を監督。
1998年、『The 14 th Chick』で長編映画デビュー。
2000年ドキュメンタリー『ナザレ』が02年カンヌ国際映画祭・批評家週間に正式招待。
2002年ドキュメンタリー『エルサレム、いつの日か』が03年サンダンス映画祭で上映。
2002年『エルサレムの花嫁』
2005年『パラダイス・ナウ』がパレスチナ映画として初の
アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、
ゴールデングローブ賞最優秀外国語賞に輝く。
2013年『オマールの壁』がカンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞。
更にパレスチナ映画としては2度目のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされる。
最新作は『The Idol』
アメリカの人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』の
中東版『アラブ・アイドル』で優勝したパレスチナ人ポップシンガーの実話を描く。

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いろいろ驚くことの多い映画ですが、
とのの驚いたのは主人公がよじのぼる壁の高さとその圧迫感。
高さ8mのその壁が垂直に居住区を分断しているのです。

それを身軽に登っていくオマール。
太い眉と大きな目が印象的なこの青年はじめ、
その恋人、友人を演じた俳優はみな新人なのだそうです。

パレスチナの抱える問題には胸が痛みますが、
青年達が直面する懊悩はパレスチナの問題であるだけではなく、
ある意味グローバルなものであります。

青年たちは「ハムレット」のように悩み、
「ロミオとジュリエット」のような悲恋に泣き、
「走れメロス」のように信頼を大切にします。
それら人として根源的な感情や想いは国や政治制度によって違いはありません。

とのは精悍でありながら美しいオマールにひきこまれました。

さあ、いったいどんなお話でしょう。
続きは次回で。
乞うご期待でございます。



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オマールの壁
監督・脚本・製作/ハニ・アブ・アサド、撮影/エハブ・アッサル、編集/マーティン・ブリンクラー、イヤス・サルマン
出演
アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニほか
4月16日(土)より角川シネマ新宿、渋谷アップリンク他ロードショー
2013年、パレスチナ、97分、アラビア語・ヘブライ語、カラー、配給/アップリンク、http://www.uplink.co.jp/omar/

by Mtonosama | 2016-04-10 05:29 | 映画 | Comments(0)