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殿様の試写室

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タグ:ホン・カウ監督 ( 2 ) タグの人気記事


追憶と、踊りながら
-2-
LILTING

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(C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014


英国の難民対策や映画支援政策にビックリするだけで終わってしまった前回。
後編ではどんな映画なのかもお伝えしないと。

支援政策もすごいのですが、
やはり注目すべきはホン・カウという監督の才能でありましょう。

映画の舞台はロンドン。
カンボジアからやってきた中国人の母とフランス系の父との間に生まれた一人息子カイ。
その母ジュン。
そして、カイの恋人リチャードが主要な登場人物。

ロンドンの介護ホームで暮らすジュン。
英語の話せない彼女にとってカイに会うことだけが唯一の楽しみです。
でも、愛する一人息子はゲイ。そして、その相手はジュンの毛嫌いするリチャード・・・

とまあ、そんな設定でありますが、
これは監督自身の経験にきわめて似通っています。
監督はカンボジアからの移民、英語はもちろん中国語も話すことのできる西洋化した移民です。
監督の母もジュンと同じく英語は苦手で、
監督は子どもの頃から母のために通訳をしていたそうです。

と、大まかなところをお伝えしたところで、お話に進みましょうか。

ストーリー
昔懐かしい壁紙の貼られた室内。
「夜来香(イエライシャン)」のメロディが流れ、テーブルの上の写真立てが
その部屋の住人の古き良き時代を彷彿とさせる。

老年期にさしかかったジュンはこの穏やかな介護ホームで一人暮らしている。
英語ができず、ホームでは無言で暮らす彼女にとっては
息子カイの来る時だけが中国語で話せる唯一の時間。
カンボジアの華僑だったジュンは夫と共に29年前にカンボジアを離れ、
息子の将来のためにと英国へやってきたのだ。
夫に先立たれてからは女手ひとつで一人息子のカイを育ててきた。
そして言葉のわからないジュンにとって、息子はロンドンと彼女をつなぐ存在でもあった。

ジュンは最近ホーム内でイギリス男性・アランと知り合った。
その日もカイにそんな話をしているとき、女性職員が電球の球を換えにやってくる。
それに気を取られていたほんの一瞬後、カイの姿は消えていた。

ある日、リチャードがジュンを訪ねてホームに。
ジュンの息子の友人、と名乗るリチャードに「ご愁傷様」と告げる職員。
カイは亡くなっていた。リチャードとの関係を母に告げることのできないまま。

ジュンはリチャードが好きではない。
だが、リチャードはカイを亡くして傷心のジュンを心配し、
ホームの住人アランと親しくなれるよう気遣うのだった。
そして、二人のために中国語と英語の通訳としてヴァンを雇う。

リチャードが通訳のヴァンを連れていくと、彼女を通じてアランとの会話を楽しむジュン。
だが、ジュンとリチャードとの関係は相変わらずぎくしゃくしたまま。
カイとの関係を話せないまま、彼との想い出に一番近くにいたいと思うリチャード。
それはジュンも同じだった……

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「あなたが私の世話をしたがるのは、あなたが私のたった一人の息子を奪ったから?」
と言い放つジュンに、
リチャードは
「あなたはなぜこの国の文化になじもうとしない?
医者だって銀行だって全部カイがやっていた。
カイがいない今、いったい誰があなたの面倒を見るんだ。それは僕だ!」
と叫び返すシーンに思わず快哉。
だって、息子に甘え過ぎじゃない?ジュン。

自分がゲイではないから、カイにもリチャードにも心底共感はできないし、
20数年英国に暮らしながら英語を覚えようとしない母親・ジュンにも共感できません。
主人公の誰にも感情移入できないまま、それでもひきずられて観続けました。
ひきずっていく力を持つ映画です。

ジュンとカイの中国語で会話するシーンからカイのいなくなったシーンへ。
まるで引き戸を閉め、開けるように
あるいは転生するかのように、
自然に場面も時間も転換します。
そして、それぞれのストーリーも人生も続きます。

ラストのダンスシーンは過ぎ去った時間の中を軽やかに踊る亡霊たちのよう。
ディズニーランド・ホーンテッドマンションを想い起こしてしまいました。
「追憶と、踊りながら」
Lilting(軽やかに動く)という原題に、この邦題。良いです。

頑固な母親も、親孝行な息子も、ゲイの恋人たちも、年老いても未だ肉欲の衰えない老人も
「いま」というボールルームで軽やかに踊っています。





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追憶と、踊りながら
監督・脚本/ホン・カウ、製作/ドミニク・ブキャナン、撮影/ウラ・ポンティコス
出演
ベン・ウィショー/リチャード、チェン・ペイペイ/ジュン、アンドリュー・レオン/カイ、モーヴェン・クリスティ/マーガレット、ナオミ・クリスティ/ヴァン、ピーター・ボウルズ/アラン
5月23日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2014年、イギリス、英語&北京語、86分、後援/ブリティッシュ・カウンシル、配給/ムヴィオラ
http://www.moviola.jp/tsuioku/

by Mtonosama | 2015-05-16 06:14 | 映画 | Comments(4)

追憶と、踊りながら
-1-
LILTING

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(C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014


60年代風の壁紙の前で、冴えない印象の若いイギリス人が
暗い目をして佇んでいる写真があります。
その下には意志の強そうなアジア系の老女が窓の外を眺めている写真が。

『追憶と、踊りながら』のチラシの写真です。
なぜか西洋人と東洋人の組合せにはイマジネーションをかきたてられます。

冴えない、などと失礼なことを言ってしまいましたが、
この冴えない顔の(あ、ごめんなさい。また言ってしまった)
イギリス人はベン・ウィショーです。
『007』シリーズのQです。
あるいは
『パフューム ある人殺しの物語』(‘07)で若き殺人者を演じた人です。

一方、強い眼光を放つアジア系の老女――
老女と言っては失礼ですね。
アジア系の年配の女性はチェン・ペイペイ。
60年代から70年代にかけて中国語圏で武侠映画の女王として名を馳せた伝説の女優です
そうそう、アン・リー監督のヒット作『グリーン・ディスティニー』にも出演。
香港電影金像奨最優秀助演女優賞を受賞しています。
1946年生まれの彼女、
若い頃はさぞ凛々しくお美しかったであろうと思われる眼力であります。

おふたりともスターです。

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ですが、
監督は、本作が初の長編映画となるカンボジア出身の英国人ホン・カウ。
そして、この映画は長編映画援助スキームから生まれたもの。
いわゆる低予算映画です。

長編映画援助スキーム
フィルム・ロンドンが主催し、BBCフィルムとブリティッシュ・フィルム・インスティテュートがサポート。
低予算で製作できる長編映画を支援する「マイクロウェーブ」というスキームです。
ホン・カウが応募した2011年第5回「マイクロウェーブ」には93の応募がありました。
最終候補は12名。そこから集中セミナーやワークショップ、更には4ヶ月間、
サポートを受けながら作品を発展させ、成功した作品だけが製作に至ります。

ホン・カウ監督
1975年、カンボジア・プノンペンに生まれる。ポル・ポト派から逃れ、ベトナムへ。
英国が実施していた「難民アクション」というサポートシステムによって
ベトナムからロンドンへ。
1997年にUCA芸術大学を卒業したが、映画に興味を持ち、映画製作を学ぶ。
その後、BBCとロイヤル・コート劇場の「50人の新進作家」プログラムに選ばれ、
脚本の経験を積む。独立系映画会社で働きながら、映画の製作を始めた。
2006年ベルリン国際映画祭で上映された『Summer』、
2011年サンダンス映画祭で上映された『Spring』。この2本の短編で注目される。
2013年にはスクリーンデイリー紙が選ぶ「明日のスター」に選ばれるなど
次世代を担う才能として期待されている。

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いやあ、ホン監督、クメール・ルージュに捕まらなくてよかった。
大変な才能がカンボジアの泥の中に埋まってしまうところでした。
それにしても「難民アクション」といい、
「マイクロ・ウェーブ」といい、英国にはすばらしいシステムがあるものです。

さあ、いったいどんな映画なのでしょうか。
乞うご期待でございます。



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追憶と、踊りながら
監督・脚本/ホン・カウ、製作/ドミニク・ブキャナン、撮影/ウラ・ポンティコス
出演
ベン・ウィショー/リチャード、チェン・ペイペイ/ジュン、アンドリュー・レオン/カイ、モーヴェン・クリスティ/マーガレット、ナオミ・クリスティ/ヴァン、ピーター・ボウルズ/アラン
5月23日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2014年、イギリス、英語&北京語、86分、後援/ブリティッシュ・カウンシル、配給/ムヴィオラ
http://www.moviola.jp/tsuioku/

by Mtonosama | 2015-05-13 05:48 | 映画 | Comments(2)