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殿様の試写室

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シリアの花嫁
The Syrian Bride

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中東映画が多い最近の当試写室です。
中東の映画には良い作品が多いのですが、ひとつ問題が。
そうなんです。
地理的にも、政治的にも、宗教的にも、歴史的にもあまりに複雑でわかりにくい。
アラブ人とユダヤ人。イスラム教とユダヤ教。
さらにイギリス、フランス、旧ソ連、アメリカも加わった
シッチャカメッチャカな状態が100年も続いています。
さらに聖書の時代にまで遡ったら、もう訳がわかりません。

タイトルから想像がつくように、「シリアの花嫁」はアラブ人の抱える問題を描いた作品です。
ですが、この映画のエラン・リクリス監督はエルサレム生まれのユダヤ人。
戦争は嫌、というのはたやすいけれど、
ここまでこじれてしまった関係は、絡んだ糸目をほどくように
すぐれた映像芸術によって根気よく矛盾点をあぶりだしていくことも必要なのかもしれません。

ユダヤ人監督、アラブ人監督
民族や国の利害だけでなく、
人としてどう生きていきたいかを訴える映画監督が
出始めていることはちょっと良い傾向でしょうか。

映画の舞台はゴラン高原。
第一次世界大戦以来、フランスの委任統治領の一部だった地域です。
ゴラン高原はシリア・アラブ共和国に属していますが、
1967年の第三次中東戦争でイスラエルによって占領されました。
(今問題になっているガザもこの戦争の時に占領されました)
シリアは、ゴラン高原を自国領と考え、イスラエルという国家の存在も認めていません。
それなのに、イスラエル政府は1981年にゴラン高原を一方的に併合してしまいました。

そこに、「シリアの花嫁」が生まれた背景があります。

ゴラン高原がイスラエルによって併合されてしまったので、
住民はイスラエル国籍と市民権を取得できます。
でも、ほとんどの住民はシリア人としての民族意識が強く、イスラエル国籍を選びません。
ということは無国籍!?
ゴラン高原北部の村マジュダルシャムス村に住むモナも、そんな住民の一人。

モナは今日シリアに住むタレルに嫁いでゆきます。
人生で一番うれしい日なのに、浮かない顔をしているのはなぜ?
ウェディングドレスを手に、姉のアラムと連れだって村の美容院へ向かうモナ
道々、村人たちが「おめでとう」と声をかけてくれます。

イスラエルのホテルに、モナの兄・長男で弁護士のハテムが家族と泊まっています。
彼は父やイスラム教ドゥルーズ派長老たちに逆らってロシア人と結婚したため、勘当された身。
結婚式に出席するため8年ぶりに故郷のゴラン高原へ戻る途中です。
テルアヴィヴ空港には二男のマルワンも。
各国に散っていた兄弟たちが妹の結婚を祝福するため、集まってきました。

その日、モナの村ではシリアの新大統領を支持するデモが行われる予定。
イスラエルの警察署は警戒態勢をはります。
同時に「シリア側に嫁ぐ花嫁がいるが、花嫁の父・ハメッドは軍事境界線に行かせるな」との命令も。
ハメッドは親シリア派。投獄経験もある要注意人物なのです。

ゴラン高原の国連事務所では
国際赤十字のスタッフ・ジャンヌが同僚とモナの結婚について話しています。
「花嫁は境界線を越えたらシリア国籍が確定し、イスラエルへの入国は不可能になってしまうのね」

花嫁姿のモナは姉のアマルに結婚への不安を打ち明けます。
境界線を越えたら最後、
何が起ころうと二度と故郷へは戻れず、家族に会うこともできないのですから……

シリア側とゴラン高原側に別れた親子、兄弟、親戚が会う方法はないのか、というと、
ないわけではありません。
どうするか、というと、叫ぶのです。

シリアとイスラエル領となったゴラン高原を隔てる地雷が埋まった谷越しに
「叫びの丘」と呼ばれる丘から、親が子に、弟が兄に叫びます。
「げんきかー!」「げんきだよー!」。

映画の中でもシリアで勉強する弟が両親や兄弟に向かって叫ぶシーンがあります。
花婿のタレルも叫びます。
結婚式でありながら、ゴラン高原側の親族は花婿と花嫁が並んだ姿すら見ることができないなんて…

昔、ベルリンが西と東に別れていたころ、
壁越しに会う肉親たちの様子を撮影したドキュメンタリーを見ました。
暗く重いベルリンの冬空の下、涙をおさえる老婆の姿が印象的でした。
暑く照りつけるゴラン高原の太陽の下でも同じことが今も起こっています。

しかし―――
花嫁は勇敢でした。姉のアマルも強い女性でした。
女は一旦決断すればやります。

希望という言葉を信じたくなる作品です。
ちなみにアマルとはアラビア語で「希望」という意味なのだそうです。



「シリアの花嫁」
監督/エラン・リクリス、脚本/エラン・リクリス、スハ・アラフ
キャスト
ヒアム・アッバス/アマル、マクラム・J・フーリ/ハメッド、クララ・フーリ/モナ、アシュラフ・バルホウム/マルワン、エヤド・シェティ/ハテム、ジュリー=アンヌ・ロス/ジャンヌ、
ディラール・スリマン/タレル
2月21日(土)より岩波ホールにてロードショー
http://www.bitters.co.jp/hanayome/

by mtonosama | 2009-02-13 06:34 | 映画 | Comments(6)