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阿賀に生きる -2-

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©阿賀に生きる製作委員会

前回、「阿賀に生きる」は20年前の作品だと申し上げました。
20年も経てば、人もフィルムも歳をとるということで、今回はニュープリントでの上映。
20年経っても変わらない永遠のじいちゃんばあちゃんの魅力を存分にお楽しみください。

日本の田舎の老夫婦。
憎まれ口をきいたり、一緒に農作業をしたり、餅をついたり。
仲が良いのか悪いのか、それでも長い間、共に暮らしてきた人たちです。
ちょっと観ただけだったら、田舎の老夫婦の日常生活を描いたよくできた記録映画かな、
とお思いになるでしょう。

酔いつぶれたじいちゃんや、口の達者なばあちゃん。
笑いながら観ていると、この人たちが新潟水俣病の患者であることを忘れてしまいます。

昭和電工の鹿瀬(かのせ)工場が、メチル水銀を含んだ工場廃液を未処理のまま、
阿賀野川に流し続けていたことから起きた新潟水俣病。
長年、阿賀野川流域に住み、この川で捕れる魚を食べてきた人たちですが、
「わしらの身体を元通りにしてくれ」
などと訴えているわけではありません。
住民たちが裁判所に向うシーンはありますが、
映画のほとんどの部分がこの老夫婦たちの日常を描いているだけです。

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撮影クルーを気遣うおばあさんや酔いつぶれて寝てしまうおじいさん。
名人芸ともいえる川舟つくりの技術を持ちながら、それを封印してきた元舟大工が
何かを決意したかのように川舟づくりを伝え始めること。

まったくの自然体で阿賀野流域の村で暮らしている人々。
彼らを観ていると、
日々の生活の中へ音もなく流れ込み、人々の身体の中に蓄積していく毒の怖ろしさ、
そして、それらを流す企業の罪深さを実感します。
それは当然去年の3月以来、今も澱のように積もり続ける放射性物質と
原発政策を推進してきた電力会社、国への怒りにつながります。

とはいえ、映画は抒情的といえるほど優しい日本の原風景を展開します。
いったい、どんな映画なのでしょう。


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新潟県を流れる大河・阿賀野川。
監督を始めとする7人のスタッフがその流域の民家に住みこみ、
そこに暮らす人々を3年間にわたって撮影。
鹿瀬(かのせ)町に住み先祖代々田んぼを守り続ける長谷川芳男・ミヤエさん夫婦。
阿賀野川に浮かぶ川舟を200隻以上作った舟大工・遠藤武さんと妻ミキさん。
餅つき職人・加藤作二・キソさん夫婦。
この3組の夫婦の日々の暮らしをカメラは追う。

元船頭の帆苅周弥さんが阿賀野川に吹く風について話す。
帆苅さんが会長を務める「水俣病患者の会」の活動。
長谷川芳男さんが酔っ払っては話す鮭の鉤釣り漁の自慢話。
囲炉裏を囲んで季節の川魚や山の幸を食べながら、座は湧く。

舟づくりをやめて5年も経った遠藤さんの仕事場。
新潟水俣病の裁判史上初めて、昭和電工に働いていた労働者の立場から
廃液垂れ流しの実態を証言した江川豊栄さんの話。
初めて弟子をとり、川舟づくりの技を教える遠藤さんの姿。
近在の漁師さんたちが長谷川さんの鮭の鉤釣り漁を手伝ってくれる話…

阿賀野川の日常が笑い声をはさみながら淡々と描かれます。
じいちゃんばあちゃんの見せる自然な笑顔が、監督やスタッフの村での暮らしぶりを物語っています。
双方が向け合う優しい視線を感じました。

この3組の夫婦のどこが新潟水俣病なのか――
酔っ払ったじいちゃんや歳にそぐわない色っぽい唄を披露するばあちゃん。
笑いながら映画を観ていました。

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でも、そんな中で寡黙な舟大工・遠藤さんが火傷の跡を見せて、
「感覚がないからな、五右衛門風呂でヤケドしたんだ」
とボソッと話すのを聞き、ああ、この人たちは何も不平はいわないけれど水俣病なのだ、
ということを心底実感しました。

映画は日常の中に入り込み生活を侵していく物質の怖ろしさを静かに伝えてきます。
荒々しい声で弾劾するより、もっと深く強く訴えかけてくるものがありました。

20年という時の経過を感じさせない作品です。





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阿賀に生きる
監督/佐藤真、撮影/小林茂、製作/阿賀に生きる製作委員会
提供/カサマフィルム、協賛/シグロ、配給・宣伝/太秦、配給協力/コミュニティシネマセンター
11月24日よりユーロスペースほか全国順次公開
1992年、日本、115分、カラー、16ミリ、スタンダードサイズ、モノラル
http://kasamafilm.com/aga/

by Mtonosama | 2012-11-15 06:39 | 映画 | Comments(7)
阿賀に生きる -1-

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©阿賀に生きる製作委員会

まず、最初にお断りしなくてはなりません。
実は「阿賀に生きる」は新作映画ではありません。
20年前に撮影された映画です。
そして、この映画の監督・佐藤真さんも、ここに映っている登場人物の皆さんも
ほとんどあちらの世界に行ってしまっています。

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映画の主役は3組の老夫婦。
長谷川芳男さんとミヤエさん。芳男さんは、昔は鮭漁の名人でしたが、
今はミヤエさんと2人で田んぼを守っています。
遠藤武さんとミキさん。
武さんは阿賀野川を行き来する200隻以上の川舟を造り続けてきた誇り高い船大工でした。
元気なミキさんにやりこめられては苦笑しています。
加藤作二さんとキソさん。餅つき職人の仲の良い夫婦です。
寝たり起きたりのキソさんですが、
にこやかに笑いながらも大酒呑みの作二さんへきつい一発を繰り出します。

このどこにでもいるおじいさん、おばあさんたちはみな新潟水俣病の患者です。


水俣病
環境汚染による食物連鎖により引き起こされた人類史上最初の病気であり、「公害の原点」といわれる。(2009年9月4日朝日新聞)
1956年に熊本県水俣市で発生が確認されたことがこの病名の由来であり、英語では「Minamata disease」と呼ばれる。この後、新潟県下越地方の阿賀野川流域で昭和電工が起こした同様の公害病の病名も水俣病であることから、これを区別するために前者を熊本水俣病、後者を第二水俣病または新潟水俣病(にいがたみなまたびょう)と呼称する。ただし、単に「水俣病」と言われる場合には前者を指す。水俣病、第二水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくは四大公害病とされ、日本における高度経済成長の影の面となった。
(Wikipediaより)

「阿賀に生きる」は1992年佐藤真監督によって制作されました。


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佐藤真監督
1957年青森県弘前生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。1981年「無辜(むこ)なる海-1982年水俣-」(監督/香取直孝)に助監督として参加。1984年同作品の自主上映の旅で、新潟県阿賀野川とそこで暮らす人々に出会い、映画制作を決意。1989年からスタッフ7名で阿賀野川流域の民家で共同生活をしながら撮影、1992年「阿賀に生きる」を完成。長編映画初監督にして二ヨン国際ドキュメンタリー映画祭銀賞ほか4賞受賞、サンダンス・フィルム・フェスティバルIN TOKYOグランプリ受賞、文化庁優秀映画作品賞など国内外で高い評価を受ける。1996年(有)風間フィルム設立。1999年よりNPO法人映画美学校ドキュメンタリー科専任講師となり、2001年には京都造形芸術大学教授に就任。著作に「日常という名の鏡―ドキュメンタリー映画の界隈―」(‘97)、「映画が始まるところ」(’02)など。2007年9月4日急逝。

ドキュメンタリーといっても映画ですから、編集意図があり、
テーマへと観客をひきずりこんでいく整合性のあるストーリーがあることは承知の上です。
例え、それがマイケル・ムーアのようにはっきりはしていないにしても、です。
しかし、本作にはそんな強引さはありません。
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それは、監督やスタッフたちが、3年にわたって阿賀野川の民家で共同生活をし、
老夫婦の田植えを手伝ったり、お餅をついたり、酒を呑み交わして歌を歌ったりと、
息子や孫のようにつきあってきた生活者だったから。
おじいさんおばあさんたちの笑顔を見てると、それはしっかり伝わってきます。
温かい撮影現場だったのでしょう。

4大公害病のひとつである新潟水俣病患者の悲痛な訴えとか、裁判とか、
そういう肩を怒らせるような記録ではなく、
その地に根を生やして生きてきた生活者の記録です。
さあ、いったいどんなお話でしょうか。
続きは次回までお待ちくださいませ。



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☆11月12日に更新しました。いつも応援ありがとうございます☆

阿賀に生きる
監督/佐藤真、撮影/小林茂、製作/阿賀に生きる製作委員会
提供/カサマフィルム、協賛/シグロ、配給・宣伝/太秦、配給協力/コミュニティシネマセンター
11月24日よりユーロスペースほか全国順次公開
1992年、日本、115分、カラー、16ミリ、スタンダードサイズ、モノラル
http://kasamafilm.com/aga/

by Mtonosama | 2012-11-12 07:28 | 映画 | Comments(4)