ブログトップ | ログイン

殿様の試写室

mtonosama.exblog.jp

殿が観た最新映画をいち早くお知らせ!

菖蒲
-2-

TATARAK

f0165567_6452751.jpg

なぜ短編小説が1時間半の映画になりえたか?
アンジェイ・ワンダ監督はどんな魔法を使ったのでしょうか。

そこには1人の撮影監督の死が関わっています。
この撮影監督は本作の主演女優クリスティナ・ヤンダの夫であり、
ワイダ監督の友人でもあるエドヴァルト・クウォシンスキです。

「菖蒲」撮影の半ばに彼が病死したことによって、
この映画は3つの世界に分けられることになりました。

本来の小説世界
夫が亡くなる最期の日までをホテルの部屋で語るクリスティナ・ヤンダのモノローグの世界
映画「菖蒲」の撮影現場を映し出したドキュメントの世界

さ、この3つの世界が1本の映画になると、一体どんなことになるのか、
まずは、ちょっと覗いてみることにしましょう。


f0165567_6555265.jpg

ストーリー
f0165567_6484272.jpg女優のクリスティナ・ヤンダはホテルの部屋でめざめたばかり。
「この映画は去年撮る予定だった。わたしはワイダに出演は無理だと伝えた」
彼女はカメラに向かって、この映画を撮影する予定だった撮影監督で夫のエドヴァルト・クウォシンスキの発病からその最期の日まで、
そして、ふたりの愛と苦悩の日々について、語り始める――

ポーランドの小さな町。1960年代。町には美しい大きな河が流れている。f0165567_6583999.jpgその町に住む医師とその妻マルタには深い心の傷があった。夫婦はワルシャワ蜂起で息子2人を亡くしていたのだ。最近、体調が悪いと訴えるようになったマルタを診察した夫は、彼女が余命いくばくもないことを知る。だが、そのことを本人に伝えられずにいた。マルタを心配して友人が訪ねてきた。

その時、訪れた船着き場のカフェでマルタはひとりの美青年を見かける。
その若さと美しさは彼女がとうの昔に失ってしまったもの。
彼はまた戦争中に死んだ息子たちと同じくらいの年頃でもあった。

f0165567_70391.jpg翌日、マルタは河辺で偶然その青年ボグシに出会い、声をかける。若い彼が語る不満や悩みに耳を傾け、優しいまなざしを向けるマルタ。だが、彼は人生への野望もなく、この小さな町で一生生きていこうとしていた。
そんな彼にマルタは本を読み、教養を高めるように忠告。そして、次の日、一緒に河で泳ぐことを約束するのだった。
約束の河辺に昂揚した気持で向うマルタ。
その時、目に飛び込んできたのは楽しげに恋人と橋の上で語らうボグシの姿。
思わず踵を返すマルタだったが、気づいたボグシは彼女を追いかけてきた。
再び河辺に向ったマルタは河の中に生えている菖蒲を取ってきて、とボグシに頼む。
夏の到来を祝う聖霊降臨祭には菖蒲が欠かせないのだ。
生命の祝祭でもある聖霊降臨祭。
ボグシは軽々と向こう岸まで泳ぎ、菖蒲をひと束抱えて戻ってきた。
河辺で抱き合うふたり。
青年はほてった体を冷ますようにもう一度河に飛び込み、菖蒲を持ち帰ろうとする。
だが、その美しい肢体はもう浮かび上がることはなかった――

その河辺の撮影現場。
主演女優ヤンダはひどく動揺し、現場から走り去る。
雨の中、通りすがる車に同乗し、動揺を抑えきれないまま逃げていく女優――

ホテルの一室での女優のモノローグはまだ続いている……

これまでに観たワイダ作品との違いに当惑しました。
しかし、老いつつある女性と輝きに満ちた若さに包まれた美青年との対比。
死とはもっとも遠い筈の青年の死。
河の流れと、その流れに揺れる菖蒲。

ことさらに説明的なシーンがあるわけではないのに、
生と死。青春と老い。愛と別れ。
人生の折々の局面が、心に、頭に、ひそやかに、そして、印象的に迫ってきます。
3つの世界が不協和音もなくひとつになっていました。
f0165567_751897.jpg

エドワード・ホッパー「朝の日ざし」(‘52)

すいません。終りに近くなって、またまた最初の話題に戻るのですが、
映画と絵画のことでもう一言。
監督がこの作品で意識した絵画はエドワード・ホッパー。
女優クリスティナ・ヤンダがホテルの一室で独白するシーンの客室は
美術のマグダ・デュポンに頼んでホッパーの絵を基に建ててもらったものだそうです。

とのの中では、アンジェイ・ワイダのイメージと、
都会の孤独と寂寥感を描きだしたホッパーの作品は結びつきません。

いずれにせよ、「菖蒲」はアンジェイ・ワイダの意外な横顔を覗かせてもらった作品でした。





今日もポチッとしていただけたら嬉しゅーございます。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
にほんブログ村 映画ブログ 新作映画・試写会へ
にほんブログ村
☆10月22日に更新しました。いつも応援して下さって本当にありがとうございます☆

菖蒲
監督/アンジェイ・ワイダ、撮影監督/パヴェウ・エデルマン、作曲/パヴェウ・ミキェティン、美術/マグダレナ・デュポン、プロデューサー/ミハウ・クフィェチンスキ
出演
クリスティナ・ヤンダ/マルタ、クリスティナ・ヤンダ/女優、パヴェフ・シャイダ/ボグシ、ヤドヴィガ・ヤンコフスカ=チェシラク/マルタの友達、ユリア・ピェトルハ/ハリンカ、ヤン・エングレルト/医師
10月20日(土)より岩波ホールにてロードショー(全国順次公開)
2009年、ポーランド、87分、ポーランド語、配給/紀伊國屋書店、メダリオンメディア、配給協力/アークフィルムズ、後援/ポーランド広報文化センター
www.shoubu-movie.com

by Mtonosama | 2012-10-22 07:16 | 映画 | Comments(4)
菖蒲 -1-
TATARAK

f0165567_7114922.jpg


映画と絵画って結びつきやすいです。
とのがすぐ想い起すのは「真珠の耳飾りの少女」(‘04)。
あ、そうそう、当試写室で2011年11月に上映した「ブリューゲルの動く絵」http://mtonosama.exblog.jp/16885040/、http://mtonosama.exblog.jp/16872307/
なんていう絵画そのものを映画にした作品もありました。

今回上映する「菖蒲」はポーランドを代表する作家ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチの
短編小説を映画化した作品で、絵画とは直接は関係ありません。

なのに、なぜかムンクの「生命のダンス」を連想してしまいました。
「生命のダンス」は北欧の短い夏の始まりを告げる夏至祭のダンスを描いた作品ですが、
あのムンクらしく生・快楽・死を象徴する女性が描きこまれています。

f0165567_7133018.jpg

エドワルド・ムンク「生命のダンス」(1899~1900) 

いえ、この絵のテーマが映画に結びつくとかそういうことではありません。
ただ、ポーランドの短い夏を舞台にしたこのアンジェイ・ワイダ監督らしからぬ抒情的な
タイトルの映画が夏至祭のダンスを連想させただけなのかもしれないのですが。

f0165567_723219.jpg

アンジェイ・ワイダといえば、
第2次世界大戦下、ソ連軍の捕虜となったポーランド将校達が殺された事件を描いた
「カティンの森」(‘07)http://mtonosama.exblog.jp/12306564/ といい、
「地下水道」(‘56)といい、「灰とダイヤモンド」(‘57)といい、
その映画には骨太な政治的なメッセージを含んだ作品が多いという印象があります。
それが「カティンの森」後の次作がこの「菖蒲」ですから、ちょっと意外でした。

とはいえ、これまでにも監督はヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチの小説「白樺の林」、「ヴィルコの娘たち」
を70年代に映画化しているのですが。

この舌をかみそうな名前の作家は、人間の現実にしっかりと根を下ろし、登場人物の性格、
その孤独感を、ポーランドの美しい田園風景を背景にした小説を多く書きました。
アンジェイ・ワイダ監督は彼の小説がお好きなのだそうです。


f0165567_7251770.jpg

ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチ
1894年~1980年。ポーランドの小説家、詩人。キエフ大学で法律を学んだが、詩と音楽に熱中。1918年にワルシャワに移り、翌年詩人としてデビュー。小説家としても「白樺の林」(‘32)「ヴィルコの娘たち」(‘33)で地位を確立。一貫して、人間の孤独、愛と死、運命の悲劇性をテーマに作品を発表した。戦後は文壇の中心的存在として活躍。
他の代表作に「尼僧ヨアンナ」(‘43)「菖蒲」(‘58)がある。ポーランド文学史上最も多くの自作がTV化、映画化された作家。アンジェイ・ワイダ監督は「白樺の林」「ヴィルコの娘たち」「菖蒲」を映画化。ワイダ監督は「ヴィルコの娘たち」を作家に捧げ、本人をスクリーンに登場させている。「尼僧ヨアンナ」はイェジ・カヴァレロヴィチ監督が映画化。なお「菖蒲」は1965年アンジェイ・シャフャンスキー監督によっても36分の短編TV映画にされている。

「菖蒲」。
いったいどんなお話なのでしょう。
お読みになった方はご存知でしょうが、掌篇ともいうべき、短い小説です。
1965年にアンジェイ・シャフャンスキー監督がTV映画化したときも36分の短編でした。
それが本作は87分。約1時間半です。
アンジェイ・ワイダ監督、いったいどんな仕掛けでみせてくれるのでしょうか。

乞うご期待でございます。では、続きは次回で。



今日もポチッとお願いします。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
にほんブログ村 映画ブログ 新作映画・試写会へ
にほんブログ村
☆10月19日に更新いたしました。いつも応援ありがとうございます☆

菖蒲
監督/アンジェイ・ワイダ、撮影監督/パヴェウ・エデルマン、作曲/パヴェウ・ミキェティン、美術/マグダレナ・デュポン、プロデューサー/ミハウ・クフィェチンスキ
出演
クリスティナ・ヤンダ/マルタ、クリスティナ・ヤンダ/女優、パヴェフ・シャイダ/ボグシ、ヤドヴィガ・ヤンコフスカ=チェシラク/マルタの友達、ユリア・ピェトルハ/ハリンカ、ヤン・エングレルト/医師
10月20日(土)より岩波ホールにてロードショー(全国順次公開)
2009年、ポーランド、87分、ポーランド語、配給/紀伊國屋書店、メダリオンメディア、配給協力/アークフィルムズ、後援/ポーランド広報文化センター
www.shoubu-movie.com

by Mtonosama | 2012-10-19 07:34 | 映画 | Comments(4)