デザートフラワー -2- Desert Flower
Desert Flower
(C)Desert Flower Filmproductions GmbH
ワリス・ディリーはとても美しい女性です。
アフリカの角と呼ばれる彼女の祖国ソマリアの人々は目鼻立ちがくっきりして、
身長も高く、美しい人々。
ワリスを演じたリヤ・ケベデはエチオピヤ出身で、ワリスと同じくスーパーモデルです。
2003年には有色人種モデルとしては初めてエスティ・ローダーの顔に選ばれ、
一流ファッション誌の表紙も飾っています。
こんなところもワリスと共通したところです。
この映画でもすばらしい存在感を示してくれました。
実はこの作品をどのようにご紹介すればいいのか悩んでいます。
はい、もちろんリヤ・ケベデという素晴らしい演技者を得て、
ワリス・ディリーの波乱万丈な人生を描いた映画です。
そして、アフリカの遊牧民の娘がスーパーモデルとして大成功をおさめる
サクセス・ストーリーでもあります。
実はこれだけでも十二分におもしろい映画なのですが、
でも、そこにもうひとつ大きな問題が加わるのです。
問題が大きすぎて、酷過ぎて、どうお伝えすればいいのかわかりません。
ええい、ストーリーへいってしまいましょう。
ストーリー
貧しい遊牧民の家に育ったワリス・ディリーは13歳の時、
お金とひきかえに結婚させられそうになります。
彼女は家族のもとを離れる決心をし、広大な砂漠を何日もかけて、
たったひとりで歩き続けました。そして、命からがら祖母の家に辿りつきます。
その後、ソマリア大使である叔父がイギリスに駐在することになり、
メイドとして大都会・ロンドンへ旅立つことに。
ロンドンではひたすら大使館邸の掃除に明け暮れる日々。
学校なんて行かせてもらえませんから、読み書きはもちろん、英語も話せないままです。
やがて、任期を終えた叔父とソマリアに帰国する日が来ました。
でも、ワリスは故郷へ戻ることを拒み、大使館を抜け出して、路上生活を始めるのでした。
ある日、一軒のアパレルショップで店員のマリリンと出会います。
気の良いマリリンの下宿に居候できることになり、彼女のすすめでハンバーガーショップ
で働けるようにもなりました。
バーガーショップで働くワリスに声をかけたのが、
一流ファッションカメラマンのドナルドソンでした。
モデルにスカウトされたワリスはその美しさと抜群のスタイルでトップモデルへと転身。
海外デビューを目前としたワリス。
ところが、パスポートの期限が切れていたため違法滞在者として拘束されてしまいます。
なんとか釈放はされたものの、今後モデルとして働くためには
無制限滞在許可を取得しなくてはなりません。
そこで、下宿の住人ニールがワリスの事情を理解した上で偽装結婚を提案。
無制限滞在許可が認められ、ニューヨークで世界的なトップモデルになったワリス。
そんなワリスにインタビューの依頼が来ます。
編集者の前でワリスが語り始めたことは……
路上生活を始めたワリスがビルの隙間に細い体と長い脚を押し込み、
縮こまる様子はリアリティに溢れながら、美しく印象に残るシーンです。
4年もロンドンに暮らしながら英語も話せないワリスが持ち前の明るさで
アパレルショップの店員マリリンにくっついていくシーンは笑えます。
オーディション万年不合格の人の良いマリリンも本当に良い味を添えてます。
ガーリートーク満載の2人の楽しい会話と
ワリスがカメラマンのドナルドソンに見せる警戒感。
そして、マリリンがベッドでボーイフレンドと戯れるのを目撃して全身を凍らせるところ。
このあたりで「ん?」と思わせ、グングンとワリスの告白とラストシーンにひっぱられていきます。
すごい、です。
シェリー・ホーマン監督の同性としての眼と心を感じます。
キャリアばりばりの女性編集者がワリスの告白を聞いて泣き出すシーンがありました。
運良く文明国に生まれた彼女たち、そして、私たち。
女であることの都合悪さを感じることはあるし、男女間の不平等や、
キャリア女性が一様に感じる見えない天井とか、いろいろあるものの、
女性という性を持つ人間であることをまっこうから否定されるFGMを目の前にしては
絶望的な思いに襲われるほかありません。
目の前の美しい若い女性がその処置を受けた当の女性だとしたら、なおさらです。
彼女の表面の美しさと女としての部分につけられた大きな傷。
表面の華やかさと美しさとその内に抱えるむごたらしい傷痕―――
存在と現実の間に横たわる大きな黒い闇を前にして、
普通に成長してきた女性たちは暗澹とした思いに足元を崩される思いです。
FGMは宗教の生まれるはるか以前から通過儀礼として行われてきたといいます。
毎日8000人、毎年300万人、現在FGMを受けさせられた女性は1億3000万人以上もいます。
現在、アフリカではギニア、ガーナ、ブルキナファソ、ジブチ、コートジボアール、エジプト、タンザニア、トーゴ、セネガル、エチオピア、ケニア、モーリタニア、マリ、ニジェール、中央アフリカ共和国、ベニンなどでFGMを法律で禁止する国々も増えてきているそうです。
しかし、なにより必要なことは、「なぜ法律が必要なのか」「なぜそのような法律が人々のためになるのか」を知ってもらうこと。そのための教育キャンペーンが必要なのだといいます。
http://www.jca.apc.org/~waaf/
ワリスが勇気を出して発した声は今世界中を駆け巡っています。
ワリスの声を受けて、この映画を観て、この現実をしっかりうけとめることが
同じ女性としての宿題かもしれません。
ラストで、幼女が発する恐怖と痛みと絶望に満ちた悲鳴がいつまでも耳にこびりついて消えません。
終
デザートフラワー
監督・脚本/シェリー・ホーマン、製作/ピーター・ヘルマン、原作・監修/ワリス・ディリー、撮影/ケン・ケルシュ、編集/クララ・ファブリ、衣装/ガブリエル・ビンダー
出演
リヤ・ケベデ/ワリス・ディリー、サリー・ホーキンス/マリリン、ティモシー・スポール/ドナルドソン、ジュリエット・スティーブンソン/ルシンダ、アンソニー・マッキー/ハロルド、クレイグ・パーキンソン/ニール
12月25日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2009年、ドイツ・オーストリア・フランス、127分、配給/エスパース・サロウ+ショウゲート
http://www.espace-sarou.co.jp/desert/
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♪12月15日に更新しました。いつも応援ありがとうございます♪
ラストの悲鳴がここまで届きそうです。
華やかなサクセスストーリーだけでは、なさそうですね。
実はここだけの話、ラストの悲鳴は本当にFGMをされた
小さな女の子のあげた悲鳴だそうです。
以前、餓死寸前の幼児の背後でハゲタカが待っているところ
を撮ったカメラマンがピュリッツァー賞を受賞したとき、
「撮影している時間があるならなぜ助けないんだ」と非難されたことがありましたね。
確か、そのカメラマンは自殺したのではなかったでしょうか?
餓死寸前の子どもはもう死んでいたかもしれないし、
FGMをされる子どもも救い出せる状態ではなかったのかもしれません。
ピューリッツァ賞のカメラマンも、デザートフラワーの監督も
撮影することによって世界中にその現実を知らせようとしたのかもしれません。
この撮影に関わった人たちすべてにとって苦渋の選択だったでしょう。
いや、大変な映画です。
FGM,小耳に挟んだことはありましたが,こういった映画からうけるインパクトを考えると,やっぱり映画のもつ力っていうのはすごいなと思います.当然見にいかないとその効果はありませんが.
FGMについてはたしかに不衛生な方法や女性に対しての偏見などなど問題な点は多々あり,個人的には反対ですが,欧米各国の”自分たちから見て”野蛮だから,というような理由で声高に否定する論陣を張るのには正直違和感も感じます.
ねがわくばアフリカ人から見た解釈での映画も見てみたいと思います.
アフリカ、アジアに対する欧米人の”上から目線”には
カチンとくることは多いですね。
それにしても、FGMは差別的で残酷な処置です。
一歩譲って、結婚が女性にとっての安定した生きる糧と考え、
そのためにFGMが欠くべからざるものと考える人々がいることも、
この子が幸せな人生を送るためにFGMが必要と信じる親がいまだ多いことも、
事実でしょう。
しかし、それを施される幼い女の子にとって
FGMは心身両面に大きな傷を残しますね。
アフリカでは多くの国でFGMを法的に禁じているそうです。
でも、禁じれば破る人がいるのは世の習いで、闇のFGMが増えているとか。
なかなか悩ましい問題です。
処置の際に死んでしまう子もいるし、
大きくなってもFGMが原因でさまざまな支障があり、
死に至る人も出てくるんだそうです。
何かできることはないかな、と思いますが、
まずは映画を観ることかなぁ・・・
今でも多くの国で行われているんですね。
もし自分の身に起こったとしたら発狂しちゃうかも。。
こういう風習っていうのはいつも弱い子供たちに施されるんですね。。
恐ろしいことです。
この映画見たい様な見たくないような。。
とのさまのレビューで見たことにします。
恐いですよねぇ。
それにつけてもワリスさんの勇気には感動します。
なかなかカミングアウトできることじゃないですもん。
ファッションもヘアメイクも素敵でしたよ♪
と、Tsugumiさんの好きなもので誘ったりして(笑)