黒いスーツを着た男 -2- Trois Mondes
Trois Mondes
© 2012 - Pyramide Productions - France 3 Cinéma
さて、今回も不法移民の登場であります。
それもモルドヴァという国からの移民です。
ヨーロッパでは難民や移民の問題は避けて通れないのでしょうね。
それにしても、モルドヴァっていったいどこ?
モルドヴァ共和国はルーマニアとウクライナに挟まれた小国。
旧ソ連時代には、民族自治共和国のひとつでした。
旧ソ連を構成した15共和国の内、唯一ラテン系民族の国がこのモルドヴァです。
モルドヴァの歴史は11世紀にまで遡ります。
オスマントルコとロシアの支配下を行き来させられ、ロシア革命後はソビエト連邦下に。
ソ連崩壊後、1991年に独立。
九州よりも小さい国で、人口は約360万人。その内、ルーマニア系が78%を占めています。
使用言語はモルドヴァ語(ルーマニア語に近い)とロシア語。
民族的にも歴史的にもルーマニアと近いモルドヴァはルーマニアとの統合を望んでいるようです。
が、その一方で、ロシアとウクライナの支援を受けたウクライナ=ロシア系住民が
沿ドニエストル共和国として独立を主張しているという現実。
ヨーロッパでも最貧国といわれ、さらには政治的な混乱にもさらされているモルドヴァ。
多くの人が亡命や国外脱出を余儀なくされています。
本作に登場するヴェラたちは、大変な思いをして
モルドヴァからパリへと脱出してきた人々というわけです。
といったモルドヴァ豆知識を下敷きにして、行きます。
ストーリー
自動車ディーラーに勤めるアランは、修理工から出世。
社長にも認められ、今は社長令嬢との結婚を10日後に控える人生最高潮の男。
だが、深夜、羽目を外した彼はパリの街を酔っ払って暴走中、一人の男を轢いてしまった。
呆然として車から降り立ったアランだが、同乗する友人に言われるまま、
男を置き去りにして逃走――
その一部始終を目撃していた女がいた。ジュリエットだ。
救急車を呼び、被害者を助けた医者志望の彼女は、翌日、病院を訪れ、
男の妻ヴェラと出会う。ヴェラとその夫はモルドヴァからの移民で、不法就労者だった。
罪悪感にさいなまれながら眠れぬ夜を過ごし出社したアラン。
新聞であの事故の目撃者がいたことを知り、動揺する。
被害者の容態を知ろうと病院へ行き、昏睡したままの男を見て激しい後悔の念に駆られるのだった。
そんなアランを目にしたのがジュリエットだ。
慌てて立ち去るアランの後姿を見た彼女は事故現場から立ち去った犯人に違いないと確信。
だが、そのことをヴェラには告げず、単独でアランの居場所をつきとめる……
アランにとっても不運だが、不法就労しか生きるすべのない移民が異国で事故にあうこと。
これもまた大きな不運です。
その間に立ち、良識にしたがって行動しながら、のっぴきならない立場に追い込まれていくこと。
これも不運です。
人生の底辺から這い上がり、やっと幸運を手にしようとする若者が少し羽目を外したからといって、
彼を責めることはできない筈。
しかし、事故の代償はあまりにも大きいものでした。
たまたまその日に酒を呑んでしまったこと。
たまたまその日その時間にモルドヴァの男がその道を横切ったこと。
そして、たまたま恋人と喧嘩してバルコニーに出たジュリエットが一部始終を目撃してしまったこと。
たしかに間が悪すぎます。
しかし、殺された側はそれでは済まされません。
印象的なシーンがあります。
結局亡くなってしまった夫の臓器提供を要請する医師たちに対して、
「なぜ無償なの?ただで提供することなどできない」
と激しく喰ってかかるヴェラ。
医者は「臓器売買は非人道的であり、ご主人の臓器の無償提供によって
多くの人を助けることができます」
と口ごもりながら言うことしかできません。
追い詰められたヴェラの要求に対し、
西側社会の人道的見解、つまり、マニュアル(?)のいかに無力なことか。
とても印象的でした。
ストーリーやテーマと関係のないところに心を打つ部分があります。
映画ってほんとに一筋縄ではいきませんね。
終
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☆8月26日に更新しました。いつも応援をありがとうございます☆
黒いスーツを着た男
監督/カトリーヌ・コルシニ、脚本/カトリーヌ・コルシニ、ブノワ・グラファン、音楽/グレゴワール・エツェル、撮影/クレール・マトン、製作/ファビエンヌ・ヴォニエ
出演
ラファエル・ペルソナーズ/アル、クロチルド・エム/ジュリエット、アルタ・ドブロシ/ヴェラ、レダ・カテブ/フランク、アルバン・オマール/マルタン、アデル・ハネル/マリオン、ジャン=ピエール・マロ/テスタール、ローラン・カペリュート/フレデリック、ラシャ・ブコヴィッチ/アドリアン
ヒューマントラスト渋谷他にて全国順次公開中
2012年、フランス、フランス語、90分、http://www.cetera.co.jp/kurosuits/
「たまたま、この夫婦の子供として生まれたから・・・」
「たまたま、この飛行機に乗ったから・・・」
「たまたま、このこの角を曲がったから・・・」
その積み重ねが人生でしょう。
でも、その結果をベターな方に持って行けるかどうか、
それも一人一人の人生ですね。
私、「線の細い男性」がタイプなので、
「たまたま、彼の映画を見て・・・」
人生、楽しくなってきました~。
アランドロンといえば’太陽がいっぱい”を
思い出します。
金持ちの友人になりすまして・・・
でも死体があがってきたときの恐怖・・・。
人生が一瞬で裏返ったときでしたね。
この”アランドロン再来くん”も
人生の絶頂期にあった夜に
一瞬にして
人生が裏返った・・・・のかな?
逃げおおせるのかな?
絶頂期もないかわりに大きな転覆期もない自分は
ドラマチックな人生を 映画の中で眺めることに
しますね。
来月は機上の人。
機内映画が楽しみです!
アランドロンといえば「太陽がいっぱい」ですよね。
何回観ても、あの美しさは新鮮です。
確かに、こっちのアラン君も交通事故によって人生が
裏返っちゃったんですよねぇ。
転覆ばっかりの私は映画の中でお仲間をみつけることに
いたしましょう。アラン君よろしくね。
もう9月。すっとこさんが機上の人となる季節ですね。
お金で何でも解決できる世界と、大事な人の臓器ですら売らないと生きて行かれない貧しい世界と、その差はあまりにも大きいですね。救いは、ジュリエットの属す世界があること、でしょうか?
アラン・ドロンの再来と言われれば似ていなくもないかなぁとも思うのですが、どう比べても断然ドロンの方が輝いているだろう!というのが正直な感想です。いや、ドロンは好きじゃないんですよ。でも、彼の若い頃の美しさはすごい存在感でしたものね。
実は、ジュリエットや医師たちの属する世界も
マニュアル的な価値観に支配されたものなんですね。
ラストが爽やかなのは、世界によってどうこうされたのでは
ない個人の気づきがあるからなのかと思いました。
あ、観ていらっしゃらないのに、こんなこと言ってはいけなかった^_^;
そうです、そうです。
アラン・ドロンのあの輝きはなんなのでしょう。
「太陽がいっぱい」もそうでしたが、
「山猫」でも輝いていましたね。
美しいだけではなく、どこか野卑な部分もあって、
そのバランスが最高でした。
彼も歳をとるにつれて後者が前面に出てきてしまったけれど……
観ていらっしゃらないのに、こんなこと言ってはいけないけれど、